脳締め、神経締め、津本式究極の血抜き。鮨の魚が店に届くまでの工程

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

脳締め、神経締め、津本式究極の血抜き。鮨屋が魚の仕入れを語るとき、産地の名前より先に来るのはこの三つの処理です。魚が絶命してから店に届くまでの数時間から数日に何をしたかで、同じ海の同じ魚が別のものになります。この記事では、その工程を順に追い、一貫として口に入るときに何が変わるのかを見ていきます。

結論から

淡師は、津本式究極の血抜きを手がける仕立て人から魚を直接仕入れています。脳締めと神経締めを施し、水圧で毛細血管の血まで抜いた魚を、鰓と内臓を取り除いて真空で包み、冷蔵のまま直送する。マグロと雲丹だけは別の経路です。

この記事でわかること

  • 脳締め、神経締め、血抜きが、それぞれ何を止めて何を残す処理なのか
  • 水圧で血を抜くという発想が、生臭さと日持ちに関わる理由
  • 鰓と内臓を抜いて真空・冷蔵で送る形が、店に届いたあとの仕事を変えること
  • 血を抜いた魚のほうが、長く寝かせられる仕組み
  • マグロと雲丹だけが別の経路で仕入れられる理由
  • 七月のカウンターで、この工程が後味のどこに表れるか
目次

魚は誰の手を通って届くか

淡師では、津本式究極の血抜きに携わる仕立て人から魚を直接仕入れています。考案者である津本氏、そして津本式を高い水準で修めた山崎氏、佐久間氏。その手で締められ、血を抜かれた魚が、産地から店へ届きます。

仕入れの経路が短いことは、それだけで仕事の一部になります。魚が何人の手を経たか、運搬にどれだけの時間がかかったかは、身の状態にそのまま表れる。いつ、どこで、どう締めたかがわかる相手から受け取ると、届いたあとにどう扱うかの判断も細かくできます。

  1. 締める水揚げの直後に脳締めと神経締めを施す。
  2. 仕立てる水圧で血を抜き、鰓と内臓を取り除く。
  3. 送る真空で包み、凍らせずに冷蔵のまま直送する。
  4. 寝かせる店で魚種ごとの頃合いを見ながら熟成させる。

脳締めと神経締めが止めているもの

脳締めは、活け締めの最初の一手です。魚の脳を一突きにして即座に絶命させ、暴れることで体力が失われるのを防ぎます。生きたまま氷に入れれば、魚は苦しんで暴れ、体温が上がり、身に乳酸がたまる。白濁した身や締まりのない食感は、実はこの段階で決まっていることが多いとされます。

神経締めは、その次に来ます。脊髄に細い線を通して神経を破壊すると、死後硬直の始まりが遅れる。硬直までの時間が延びるほど、身は柔らかいまま港を離れられます。旨味の元になる成分が、暴れや硬直で使い切られずに残るということです。

肝心なところ: 脳締めと神経締めは、味を足すための処理ではありません。魚がもともと持っている旨味の元を、減らさずに残すための処理です。

究極の血抜きは何をしているのか

津本式究極の血抜きは、尾側に切り込みを入れ、水の圧力を使って血管に水を送り込む方法です。心臓が止まったあとでも、水圧なら細い血管の先まで届く。背骨に沿った血合いや、身のなかに残った血まで押し出していきます。

血は、生臭さの主な出どころです。時間が経つほど酸化し、匂いに変わっていく。血が残っていなければ匂いが立つまでの時間が延び、そのぶん寝かせられる日数も伸びる傾向があります。血抜きは鮮度を保つ処理であると同時に、熟成を可能にする処理でもあります。

工程していること一貫に表れること
脳締め即座に絶命させ、暴れによる消耗を防ぐ身が白濁しにくく、歯ざわりが残る
神経締め脊髄の神経を破壊し、死後硬直を遅らせる硬直前の柔らかさを保ったまま届く
血抜き水圧で細い血管の血まで押し出す血の匂いが立たず、寝かせる時間を取れる
仕立て鰓と内臓を取り除く傷みの起点が減り、劣化が緩やかになる

真空と冷蔵で送るという形

鰓と内臓は、魚のなかでも傷みの早い部分です。消化酵素や細菌が多く、そのままにしておけば影響が身のほうへ広がっていく。締めて血を抜いたあと、その場で取り除いてしまえば、劣化の起点そのものが減ります。

そのうえで真空に包み、冷蔵のまま送る。真空にするのは酸素と乾燥を遠ざけるためです。凍らせないのは、凍結と解凍のあいだに氷の結晶が細胞を壊し、旨味を含んだ水分が流れ出てしまうから。箱を開けた時点で下処理の大半が済んでいるので、店では寝かせる時間と塩や酢の加減に手をかけられます。

血を抜いた魚は、なぜ長く寝かせられるのか

熟成は、魚の酵素が自らの身を少しずつ分解していく過程です。分解が進むと、旨味の成分であるイノシン酸や遊離アミノ酸が増えていく。ただし同じ時間は、匂いが育つ時間でもあります。血や内臓が残っていれば、旨味より先に匂いのほうが立ってしまう。

津本式が広く使われるようになった理由の一つは、この時間の使い方が変わったことにあります。寝かせられる日数に幅が出れば、魚種ごとの頃合いを選べる。白身は張りが緩んでから、光り物は短く、といった見極めに、江戸前の締めや漬け、煮きりの仕事が重なります。奥赤坂のカウンターが掲げる仕事の考え方も、古典的な江戸前の技法と熟成を重ねるところに置かれています。

マグロと雲丹が別の経路である理由

この工程がよく合うのは、締めて血を抜くことで持ち味が伸びる魚です。白身、光り物、青魚がそれにあたります。一方でマグロと雲丹は、別の経路で仕入れられています。

マグロは一尾が大きく、産地や市場で解体され、仲卸の目を通って店に届くのが普通です。血を抜くにも冷やすにも、扱う規模がそもそも違う。雲丹は殻のなかの部分をいただくもので、締めるという処理自体がありません。産地で箱に詰められたまま届き、粒の色と香り、崩れ方で選ばれます。同じ仕入れという言葉でも、見るところが変わります。

七月のカウンターで、どこに表れるか

七月の東京では、真子鰈や鱸といった白身が身を張らせ、鰺や縞鯵に脂が乗ります。月の後半になると、新子が市場に出はじめる。夏は魚の傷みが早い季節でもあり、締めと血抜きの差がいちばん表れやすい時期です。

違いは、飲み込んだあとに残ります。噛んで甘みが出たそのあと、口に残るのが旨味なのか、それとも血の匂いなのか。慌てて判断しなくて大丈夫です。二貫、三貫と進むうちに、後味の澄み方として気づく方が多いようです。

よくあるご質問

津本式究極の血抜きとは何ですか?

魚の血管に水圧で水を送り込み、細い血管に残った血まで押し出す仕立ての方法です。脳締めと神経締めを組み合わせ、鰓と内臓を取り除いたうえで真空にし、冷蔵で保ちます。血が残らないことで生臭さが立ちにくく、寝かせられる日数が延びる傾向があります。

活け締めと神経締めは、どう違うのですか?

活け締めは、魚を即座に絶命させて血を抜く処理全体を指す言葉で、脳締めがその最初の一手にあたります。神経締めは、脊髄の神経を破壊して死後硬直の始まりを遅らせる処理です。目的が違うため、多くの場合はこの二つを続けて行います。

血を抜いた魚は、何日くらい寝かせるのですか?

一律の日数はありません。魚種、大きさ、季節、その日の身の状態で変わります。光り物は短く、白身や大型の魚は長めに取ることが多いようです。日数を先に決めるより、身の水分と弾力を見ながら頃合いを判断するのが普通です。

食べ慣れていなくても、血抜きの違いはわかりますか?

気負わなくて大丈夫です。見分けようとするより、飲み込んだあとの後味に意識を向けてみると差が出ます。血が残っていれば、甘みのあとに金気のような匂いが少し残る。澄んだまま消えていくかどうかが、目安になります。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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