なぜ血を抜くと熟成できるのか。津本式の血抜きが変える魚の時間

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

血を抜いた魚が長く寝かせられるのは、血が傷みと臭みの出発点だからです。津本式究極の血抜きは、身の奥の毛細血管に残った血まで水と入れ替えます。この記事では、工程の手順ではなく、その先にある「なぜ熟成が成り立つのか」という仕組みと、口に入れた瞬間に分かる違いを扱います。

結論から

魚が傷む最大の原因は、身に残った血です。血は細菌の栄養源になり、含まれる鉄が脂と反応して生臭さを生みます。津本式の究極の血抜きで動脈と静脈から血を洗い流すと、傷みの進行が遅くなり、旨味が乗るまで寝かせる熟成が成り立ちます。

この記事でわかること

  • 血が細菌の足場と酸化の起点になる理由
  • 活け締めだけでは残る血と、水で洗い流す血の違い
  • 日持ちが延びることの本当の意味は「待てる幅」
  • 白身、赤身、青背で変わる寝かせ方の目安
  • 雑味・旨味・香り・余韻に出る、食べ手が分かる差
目次

血が残ると、魚は何に負けるのか

魚の身に残った血は、水分と鉄分と栄養をまとめて抱えています。細菌にとっては絶好の足場で、置いた時間の分だけ増えていきます。もうひとつが酸化です。血に含まれる鉄が脂と反応すると、あの独特の生臭さが立ちます。

つまり、傷みと臭みの多くは身そのものではなく、身に残った血から始まります。脂の多い魚ほど反応は早く進む傾向があり、夏の鰹のように血合いの強い魚では、その差がはっきり出ます。

究極の血抜きは、どこの血を洗っているのか

活け締めで大きな血管の血を出しても、身の奥の毛細血管には血が残ります。津本式の究極の血抜きは、ここに水の力を使います。尾を落として背骨の下を走る血管に水を通し、鰓の側からも圧をかけて、残った血を水と入れ替えていく。動脈と静脈の両方に水を回すのが要点です。

脳締めから神経締め、血抜きへと進む工程そのものは、以前の記事で順を追って扱いました。手順を確かめたい方はThe Tokyo Sushi Guideの記事一覧から辿れます。ここでは、その先の話をします。

日持ちが延びると、熟成という選択肢が生まれる

熟成は、置いておけば勝手に進むものではありません。傷みが先に来れば、旨味が乗る前に食べられなくなります。血を抜いて傷みの進行を遅らせると、味が変わるまで待てるようになる。日持ちが延びることの本当の意味は、日数そのものではなく、待てる幅が広がることです。

魚のタイプ寝かせる期間の目安身の中で起きていること
鯛や平目などの白身数日から一週間ほど水分が落ち着き、旨味の成分が増えて味が前に出る
鮪などの大型の赤身一週間から二週間を超えることも脂が身になじみ、酸の角が取れて香りがまとまる
鰹や鯵などの青背一日から数日と短め酸化が早く、寝かせすぎると持ち味の香りが痩せる

期間は魚種、大きさ、脂の乗り、その日の状態で変わります。何日置くかを先に決めるのではなく、身の締まりや香りを見ながら決めるのが、熟成を扱う仕事の実際です。

食べ手が感じ取れる違いは、どこに出るか

血が抜けているかどうかは、職人だけの話に聞こえて、口に入れた瞬間にいちばんはっきり出ます。感じ取りやすいのは、次の四つです。

  1. 雑味飲み込んだあとに残る、鉄のような後味がありません。舌の上がすっと片づきます。
  2. 旨味噛んだ最初ではなく、二噛み目から奥に広がります。寝かせた白身でとくに分かりやすい変化です。
  3. 香り鼻に抜けるのが魚そのものの香りだけになり、生臭さが混じりません。
  4. 余韻シャリの酸が引いたあとに、魚の味だけが少し残ります。次の一貫の邪魔をしません。

血抜きは目的ではなく、手段である

丁寧に血を抜いた魚が、そのまま良い一貫になるわけではありません。血抜きも仕立ても、その魚を一番おいしい瞬間へ持っていくための手段です。同じ真鯛でも、三日で頂点が来るものと、一週間待った方が良いものがあります。

奥赤坂の鮨 淡師では、津本式の技術を取り入れながら、血抜きや仕立てをゴールとは考えず、その魚に合った熟成を施して、一番おいしい瞬間を見極めて供するという考え方で仕事をしています。

肝心なところ: 血を抜くのは味を足すためではなく、余計なものを残さないためです。

八月のカウンターで、どう味わうか

夏は水温が上がり、魚の傷みが早く進む季節です。だからこの時期は、締める、漬ける、煮きりを塗るといった江戸前の仕事と、血を抜いて寝かせる仕事が、同じ方向を向きます。どちらも、魚を良い状態のまま口に運ぶための工夫です。

気負わなくて大丈夫です。寝かせた一貫が出てきたら、香りを一度確かめてから口に入れてみても。何日寝かせたものかを尋ねる方も多いようですし、カウンターではそうした一言から話が始まる傾向があります。

よくあるご質問

血抜きをした魚は生臭くならないのですか

生臭さの多くは、身に残った血の鉄分が脂と反応して生まれます。血が抜けているほどその反応が起きにくく、香りが澄む方向に向かいます。ただし扱いや保存の状態でも変わるため、血抜きだけで臭みが決まるわけではありません。

血抜きをすれば、どんな魚でも長く熟成できますか

いいえ。血抜きは傷みの進行を遅らせますが、寝かせて良くなる魚と、すぐに食べた方が持ち味の出る魚があります。鰹や鯵のような青背は短め、白身や大型の赤身は長めが目安になることが多いようです。

熟成と鮮度は、どちらが良いのですか

対立するものではありません。獲れてすぐの歯ごたえが身上の魚もあれば、数日置いて旨味が乗る魚もあります。江戸前のカウンターでは、魚ごとに食べ頃を見極めて出す考え方が取られます。

血抜きと神経締めは何が違うのですか

神経締めは背骨の神経を破壊して死後硬直を遅らせる仕事、血抜きは身に残った血を取り除く仕事です。目的が異なり、多くの場合は脳締め、神経締め、血抜きの順で組み合わせて行われます。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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