わさびの擦り方で味は変わる。皮の有無と、葉側・先端側の使い分け

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

本わさびは、同じ一本でも擦る場所と擦り方で辛味の強さが変わります。葉のついていた側と先端側、皮を残すか剥くか、擦る速さと力の入れ方。どれも味の設計として選ばれていて、江戸前のカウンターでは一貫ごとの辛味の当て方まで含めて考えられています。その違いがどこから生まれるのかを、家庭の擦り方にも置き換えられる形でまとめます。

結論から

わさびは葉のついていた側ほど辛味が強く、先端側は穏やかになります。皮を残して擦ると香りが濃く出る代わりにわずかなえぐみが混じり、剥けば口当たりは澄みます。鮫皮おろしで円を描き、提供直前に擦るのが江戸前の基本です。

この記事でわかること

  • 葉側と先端側で、辛味と甘みの立ち方がどう変わるか
  • 皮を残す擦り方と剥く擦り方の差(香りとえぐみ)
  • こぶと黒ずみをどこまで削り、皮をどれだけ残すか
  • 鮫皮おろしで円を描き、力を入れずに擦る意味
  • 辛味と香りが立つ時間と、提供直前に擦る理由
  • 夏の淡いタネに対する、わさびの当て方
目次

擦り方で動くのは、辛味・香り・口当たりの三つ

わさびの辛味は、擦る前の根には存在しません。細胞が壊れ、内側の成分どうしが出会ったときに初めて生まれます。だから、どこを、どの道具で、どんな速さで擦るかが、そのまま味になります。

擦り方で動くのは三つです。辛味の強さ、香りの立ち方、そして舌の上での口当たり。三つは連動しますが、同じ方向には動きません。香りを取りに行けばえぐみが近づき、口当たりを澄ませれば香りは薄くなる。どこで手を止めるかが、その店の考え方になります。

肝心なところ: わさびは擦った瞬間に味が作られます。産地や等級よりも、擦り方のほうが一貫の印象を左右することは珍しくありません。

葉側から擦るか、先端から擦るか

一本の本わさびは、上下で性質が違います。葉のついていた側は辛味が立ちやすく、根の先端へ向かうほど辛味は穏やかで、甘みを感じやすいとされます。江戸前では葉側から使い始め、使うたびに断面を平らに整えていく擦り方が広く見られます。

擦る場所辛味香り・甘み合わせやすいタネ
葉のついていた側強く立ちやすい青々しさが前に出る脂ののったもの、漬けにした赤身
中ほど釣り合いが取れる丸く穏やかおまかせの多くの一貫
根の先端側穏やか甘みを感じやすい白身、貝、味わいの淡いもの

ただし個体差が大きく、育った沢の水温や根の太さでも変わります。一本を通して均一に使う考え方もあれば、タネによって擦る場所を変える職人もいます。店ごとに流儀が分かれるところで、どれが正しいというものではありません。

皮を残すか、剥いてから擦るか

香りがもっとも濃いのは皮のすぐ下です。皮を残したまま擦ると、青々しい香りと淡い緑がそのまま出ます。その代わり、土のような匂いやわずかなえぐみが混じることがあります。

皮を剥いてから擦ると、辛味の輪郭が澄み、口当たりは滑らかになります。香りは控えめになりますが、繊細なタネの邪魔をしません。

多くの場合、選ばれるのはその中間です。表面のこぶと黒ずんだところだけを包丁の先で削り、皮そのものは薄く残す。こぶを残したまま擦るとおろし金に引っかかり、粒が不揃いになります。葉のつけ根も、硬い部分だけを落とします。

鮫皮おろしで円を描く

鮫皮おろしは目が細かく、しかも不揃いです。金属のおろし金が繊維を切るのに対して、鮫皮は細胞を潰すように擦れます。粒が細かくなるほど辛味と香りは立ち、口当たりは軽くなります。

  1. こぶと黒ずみを落とす包丁の先で表面のこぶと黒ずんだところだけを削り、皮は薄く残します。
  2. 断面を平らにする前に擦った面を整えると、おろし金に均一に当たります。
  3. 円を描いて擦る力を入れず、小さな円をゆっくり描きます。空気を含み、粒が細かくなります。
  4. 包丁の腹でまとめる潰さずに軽く寄せて山にすると、ふんわりした口当たりが残ります。

力任せに速く擦ると摩擦で熱を持ち、香りが先に飛びます。ゆっくり、軽く。ここだけは慌てないほうが結果に出ます。

提供直前に擦る理由

擦ったわさびの辛味は、立ち上がってから数分で頂点を越え、そこから落ちていきます。香りはもっと早い。提供直前に擦るのは、この短い山を一貫に重ねるためです。

一貫ごとに擦る店もあれば、数貫分をまとめて擦り、乾かないように覆っておく店もあります。流儀は分かれますが、時間を置かないという点はおおむね共通しています。作り置きのわさびが水っぽく感じられるのは、この山を過ぎているからです。

家庭で残った根は、擦った断面を軽く湿らせた紙で覆って冷蔵庫に置きます。使うたびに断面を削り直すと、次に擦ったときの香りが違います。

夏のカウンターでの、わさびの当て方

八月のカウンターには、鱚や鮑、烏賊のように味わいの淡いタネが並びます。淡いタネにわさびを効かせすぎると、魚そのものの香りが隠れます。逆に脂ののったタネや漬けにした赤身では、辛味が脂を切って輪郭を作ります。握りでわさびがシャリとタネの間に挟まれるのは、口に入った順に辛味が働くようにするためでもあります。

奥赤坂の裏通りにある八席の檜のカウンター、鮨 淡師のように、江戸前の古典的な仕事にていねいな熟成を合わせる店では、その魚が一番おいしい瞬間を見極めて一貫ごとに仕立てます。薬味の量も、その一貫の味わいに合わせて加減されるものです。

本わさびは季節を問わず手に入る薬味ですが、タネの側が淡くなる夏ほど、擦り方の差が一貫の印象に出ます。握りでは量が加減されているので、わさびが皿の上に見えないことも多い。刺身や巻き物に小さな山が添えられたときは、まずそのまま一口。足りなければ頼めばよく、気負わなくて大丈夫です。

よくあるご質問

わさびは皮ごと擦った方がいいですか

香りを取りたいなら皮を薄く残し、澄んだ辛味と滑らかな口当たりを取りたいなら剥きます。皮のすぐ下に香りが集まる一方で、えぐみもそこに混じります。表面のこぶと黒ずんだところだけを削り、皮は薄く残す擦り方が扱いやすいはずです。

わさびは葉側と先端側、どちらから擦りますか

葉のついていた側から使い始めるのが一般的です。この側は辛味が立ちやすく、先端に向かうほど穏やかで甘みを感じやすいとされます。辛味を抑えたいときに先端側から擦る職人もいて、店ごとに流儀が分かれます。

鮫皮おろしがないときはどうしますか

目のなるべく細かい金属のおろし金で代用できます。力を入れず、小さな円を描くようにゆっくり擦れば、粗くなりすぎるのを防げます。粒は鮫皮ほど細かくなりませんが、家庭で擦り立ての香りを味わうには十分です。

擦ったわさびはどのくらい持ちますか

香りは数分で落ち始め、辛味も同じ頃に頂点を越えます。使う分だけ擦るのが結局いちばん近道です。残った根は断面を湿らせた紙で覆って冷蔵し、使うたびに断面を削り直すと香りが戻ります。

鮨屋でわさびを足してもらってもいいですか

お願いすれば応じてもらえることがほとんどです。握りは一貫ごとに量が加減されているので、まず一口食べてから伝えると意図が伝わりやすいようです。難しく考えなくて大丈夫です。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

鮨 淡師で予約する The Tokyo Sushi Guide を見る
カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

目次