秋の鮨カウンター:秋刀魚、いくら、戻り鰹に脂が戻る季節

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

秋刀魚、いくら、戻り鰹。この三つが並びはじめると、鮨のカウンターは秋になります。水温が下がるにつれて魚は脂を蓄え、仕事の重心は「締める」から「脂を生かす」へ移っていきます。この記事では、九月から十一月に出会う秋の鮨だねを、時期の目安と職人の手の内から整理します。読み終えるころには、その日の一貫がなぜその仕事で出されたのかが見えてくるはずです。

結論から

秋の鮨は脂が主役です。秋刀魚は九月から十月に腹の脂が厚くなり、いくらは秋鮭の卵を筋子からほぐして漬け込みます。戻り鰹は南下する道中で脂を蓄え、軽やかな初鰹とは別の魚のような濃さになります。

この記事でわかること

  • 秋の魚に脂がのる理由(産卵後の回復と、南下の道中の餌)
  • 秋刀魚を生で握るか塩と酢で締めるかの判断、皮目を炙る意味
  • 筋子からいくらを仕込む五つの手順と、漬け地の濃さによる違い
  • 初鰹と戻り鰹の、時期・味わい・向く仕事の差
  • 脂の強い魚と熟成の兼ね合い、寝かせすぎない見極め
  • ひやおろしが秋の鮨だねに寄り添う理由
目次

秋の鮨だねに脂が戻る季節

水温が下がりはじめる九月から、魚は冬に備えて脂を蓄えます。夏に産卵を終えた個体が体力を取り戻す時期でもあり、身の締まりと脂の乗りが同時に上がってきます。江戸前のカウンターに秋刀魚、いくら、戻り鰹が並びはじめるのは、この変化が味にはっきり出るからです。

同じ魚でも、夏と秋では仕事が変わります。脂が薄いうちは塩と酢でしっかり締め、脂がのってくれば締めを浅くして持ち味を残す。秋は「締める仕事」から「生かす仕事」へ、重心が移る季節と言えます。

肝心なところ: 秋の脂は、産卵後の回復と南下の道中で蓄えられたものです。だから同じ魚でも、春と秋では味わいが別物になります。

秋刀魚は、締めるか生か

秋刀魚が鮨だねとして並ぶのは、おおよそ九月から十月です。北の海から南下してくる群れのうち、走りの個体は身が薄く、盛りに向かって腹の脂が厚くなります。獲れた海域と日数によって状態の幅が大きい魚でもあります。

生で握れる日は限られる

秋刀魚は傷みの早い魚です。生のまま握るのはその日の状態が揃ったときに限られ、多くのカウンターでは軽く塩を当てて余分な水分を抜き、酢に短くくぐらせてから握ります。皮目を炙って脂をわずかに溶かし、香ばしさを立てる仕立ても、秋にはよく見かけます。

薬味は生姜、浅葱、大葉など。青魚の香りは薬味と重なって初めて落ち着くため、職人は薬味の量で一貫の印象を整えます。煮切りは軽く引く程度に留めることが多いようです。

いくらは、筋子から仕込む

いくらの軍艦は、店で筋子をほぐして漬けるところから始まります。時期は秋鮭が揚がる九月から十一月ごろ。走りの九月は皮が薄く口の中で消えるように潰れ、十月を過ぎると粒が張って歯応えが出ます。どちらが良いというより、季節の中での位置が違います。

  1. ほぐすぬるめの塩水に筋子を浸し、膜から粒を外していきます。
  2. 洗う血や薄皮を落とし、水が澄むまで替えます。
  3. 水気を切るざるに上げ、粒の表面の水を落ち着かせます。
  4. 漬ける醤油、酒、味醂を煮切って冷ました地に浸します。
  5. 休ませる半日から一晩置き、味が芯まで入るのを待ちます。

漬け地の濃さと時間で、いくらの表情は大きく変わります。浅ければ卵の甘みが前に出て、深く漬ければ醤油の香りが立つ。江戸前では、シャリの酸と合わせたときに醤油が勝ちすぎない濃さに寄せる店が多いようです。

戻り鰹は、初鰹と別の魚として扱う

鰹には年に二度、旬があります。春に黒潮に乗って北上するのが初鰹、秋に三陸沖から南下するのが戻り鰹です。夏のあいだ北の海で餌を食べ続けた戻り鰹は脂が厚く、赤身というより脂の魚として扱われます。

初鰹戻り鰹
時期の目安四月から六月ごろ九月から十一月ごろ
味わい脂が軽く、香りと酸味が前に出る脂が濃く、舌に旨みが残る
よく見る仕事漬けにして、辛子や生姜を効かせる藁や炭で皮目を炙り、薬味は控えめに

炙りは香りづけであると同時に、脂を軽く溶かして口当たりを整える仕事でもあります。脂が強い分、薬味は少なめに。大蒜を添える地方の食べ方とは違い、江戸前のカウンターでは生姜や浅葱、辛子で受けることが多いようです。

脂がのった魚と、熟成の兼ね合い

秋の魚は脂が多い分、寝かせ方の判断が難しい時期でもあります。脂は旨みの土台になりますが、置きすぎれば香りが重くなる。熟成は日数を伸ばすことが目的ではなく、その魚が一番おいしくなる瞬間を見極めるための手段です。

鮨 淡師では、江戸前の古典的な仕事にていねいな熟成を合わせ、津本式の技術を取り入れながら、魚種ごとに適した期間と温度を見極めています。血抜きや仕立てはゴールではなく、一貫が最も良い状態で出るための途中の工程だという捉え方です。漁師が獲り、仲卸が目利きし、仕立て師が仕立てる。その最後を受け取るのが握り手だという姿勢は、店の考え方にも通じています。

秋の酒と、カウンターでの過ごし方

秋は「ひやおろし」が出回る季節です。冬から春に搾った酒を夏のあいだ蔵で寝かせ、外気と蔵の温度が近づく秋に出すもので、角が取れて丸みが出ています。脂ののった秋刀魚や戻り鰹に、この丸さはよく寄り添います。

日本酒を脇役ではなく、一貫を完成させるものとして考える店も増えました。鮨 淡師でも、店主が全国の蔵を訪ね、造り手の考えや土地の個性を知ったうえで銘柄を選んでいます。

秋のおまかせは、走りの軽い魚から始まり、脂の濃い一貫へ進み、いくらのような濃い味は終盤に置かれる流れが多いようです。気負わなくて大丈夫です。今日の秋刀魚は生ですか、締めていますか。そう尋ねるだけで、その日の仕事の話が始まります。

よくあるご質問

秋刀魚の鮨はいつ食べられますか

おおよそ九月から十月です。走りは身が薄く、十月に向けて腹の脂が厚くなります。生で握るか塩と酢で締めるかはその日の状態で決まることが多いため、カウンターで尋ねると仕込みの話が聞けます。

いくらの旬はいつですか

秋鮭が揚がる九月から十一月ごろです。九月の走りは皮が薄く口の中で消えるような口当たり、十月以降は粒が張って歯応えが出ます。店で筋子からほぐし、煮切った漬け地に半日から一晩置いて仕込むのが一般的です。

戻り鰹と初鰹はどう違いますか

初鰹は四月から六月ごろ、黒潮に乗って北上する鰹で、脂が軽く香りが前に出ます。戻り鰹は九月から十一月ごろ、北の海で餌を食べて南下してきた鰹で、脂が濃く旨みが舌に残ります。同じ魚でも仕事が変わり、戻り鰹は皮目を炙って出されることが多いです。

秋のおまかせは、脂の強い一貫が続いて重く感じませんか

献立は走りの軽い魚から脂の濃い一貫へと進み、その間に酢の効いた光り物や椀が挟まれることが多いです。ひやおろしのように丸みのある酒を合わせると、口の中が落ち着きやすくなります。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

鮨 淡師で予約する The Tokyo Sushi Guide を見る
カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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