鮨のコースの順番は、白身に始まり玉子で終わる「淡から濃へ」という設計でできています。十数貫を通して舌が疲れないよう、一貫ごとの味の濃さと香りの強さが計算されて並んでいる。その並びが読めるようになると、おまかせは食べるだけの時間から、その日の魚をどう見せようとしているかを追う時間に変わります。本記事では序盤、中盤、箸休め、終盤、締めの五つに分けて、それぞれの一貫が置かれている理由をたどります。
結論から
鮨のコースは、淡い味から濃い味へ積み上がるように組まれます。白身で始めて舌を整え、光り物と赤身で味の山をつくり、箸休めで一度戻し、煮物や軍艦を経て玉子で締める。順番そのものが、その日の魚をどう見せるかの設計図です。
この記事でわかること
- 淡から濃へ、というコース全体の設計思想
- 序盤に白身が置かれる理由と、そこで分かるシャリのこと
- 小鰭や鯵など光り物が中盤に来る意味
- ガリ、お椀、酢の物それぞれの箸休めのねらい
- 煮はまぐりや煮穴子、軍艦が終盤に並ぶわけ
- 締めの玉子が最後に置かれる理由と、その後の時間
コースには、淡から濃へという背骨がある
おまかせの一貫目に大とろが置かれることは、あまりありません。多くの江戸前のカウンターでは、味の淡いたねから濃いたねへ、輪郭のやわらかいものから香りの強いものへと順に進みます。これは格式の問題ではなく、十数貫を食べ終えるまで舌を保たせるための順番です。濃いものを先に食べてしまうと、その後の淡いたねの味が分からなくなる。だから濃さは、後ろへ後ろへと送られます。
- 序盤鯛や鮃といった白身、貝。塩や酢橘で、素材の香りとシャリの当たりを見せる。
- 中盤小鰭や鯵などの光り物、赤身の漬け。酢と醤油の香りが立ち、味の山ができる。
- 箸休めガリ、お椀、小鉢。舌をいったん元の位置へ戻し、次の濃さに備える。
- 終盤煮はまぐり、煮穴子、軍艦、巻物。甘みと煮つめで濃度の頂点を迎える。
- 締め玉子。菓子に近い一枚で、食事の輪郭を閉じる。
序盤の白身は、その日の塩とシャリを見せている
鯛や鮃、真子鰈といった白身は、脂よりも歯ごたえと後から立ちのぼる香りで味わうたねです。醤油ではなく塩と酢橘、あるいは薄く昆布で締めて出されることも多く、余計なものを重ねません。夏場なら鮑や鱚、細切りにした烏賊がこの位置に入ることもあります。
白身が最初に来る理由は、もうひとつあります。シャリの温度、酸の強さ、塩の当たりを、いちばん素直に受け取れるのが淡いたねだからです。赤酢を使う店であれば、その香りの立ち方も一貫目でよく分かる。普段は魚だけを見てしまいがちですが、序盤はシャリを味わう時間でもあります。
中盤の光り物と赤身が、味の山をつくる
小鰭は塩を当てて水を抜き、酢で締める。締め加減は職人ごとに違い、同じ魚がまったく別の味になります。七月は新子と呼ばれる幼魚の時期で、一貫に二枚、三枚と重ねて握られることもある。鯵や鰯も含め、光り物は酢と香味の香りが強いので、白身の後、赤身の前あたりに置かれるのが一般的です。
赤身と熟成
赤身は醤油に漬けて色と香りを深め、中とろ、大とろと脂を上げていく流れがよく見られます。近年は寝かせることで旨みを引き出す仕込みも広がり、東京・奥赤坂の鮨 淡師のように、津本式の技術を取り入れながら魚種ごとに最適な期間と温度を見極める店もあります。熟成したたねは味の密度が高いぶん、置かれる位置も自然と後ろになります。
箸休めは、舌をいったん元へ戻す
濃いたねが続くと、舌は少しずつ鈍くなります。それを一度リセットするのが箸休めです。ガリを食べるときは、口に残った脂や酢の後味を流す程度で足ります。まとめて食べる必要はありません。
| 箸休め | 出てくるところ | ねらい |
|---|---|---|
| ガリ | 一貫ごとの合間 | 口に残る脂や酢の後味を軽く流す |
| お椀(潮汁など) | 中盤から終盤への変わり目 | 温かい出汁で舌を戻し、次の濃い味に備える |
| 酢の物や小鉢 | 光り物や煮物の前後 | 酸で口を軽くし、次のたねの輪郭を立てる |
お椀が出たら、そろそろ終盤という合図であることが多い。実は、この一杯があるかないかで、後半の煮物の甘みの感じ方がずいぶん変わります。
終盤は、煮物と軍艦で濃さの頂点へ
煮はまぐり、煮穴子、煮蛸。江戸前の煮物は、煮汁を詰めた煮つめを刷いて出されます。甘さと醤油の香りが重なるので、ここが味の濃さの頂点になります。雲丹やいくらの軍艦も、海苔の香りと合わせて後半に置かれることが多い。
そこから鉄火巻きやかんぴょう巻き、干瓢と胡瓜の細巻きへと移ると、握りの流れが静かに区切られます。巻物は、締めへ向かう合図として読むと分かりやすい。もう少し食べたいと思えば、この段になってから好きなたねを一貫だけ頼む方も多いようです。慌てて途中で追加しなくても大丈夫です。
締めの玉子と、その先のひと呼吸
最後の玉子焼きは、多くの場合、魚のすり身を混ぜて焼き上げた菓子に近い一枚です。厚く焼いたものを切り出す店もあれば、薄く重ねて仕上げる店もある。甘みで食事を閉じるという点で、順番としてはこれ以上ないところに置かれています。玉子を最初に出す店もありますが、その場合は職人の技を先に見せるという別の意図があります。どちらが正しいという話ではありません。
食後の時間まで含めて設計している店もあります。鮨 淡師では、カウンターの後に本格的な茶室で抹茶と季節の和菓子をいただけます。濃い味で終えた口を、最後にもう一度整えるような時間です。
順番を覚えて臨む必要はありません。ただ、いま自分がコースのどのあたりにいるのかが分かると、一貫ごとの意図が見えてきます。難しく考えず、出された順に味わえば、それだけで設計は伝わります。
よくあるご質問
鮨の玉子は最初と最後、どちらに出るのが普通ですか
締めに出す店が多いですが、最初に出す店もあります。締めに置くのは甘みで食事を閉じるため、最初に置くのは仕込みの手のうちを先に見せるためです。どちらも江戸前の考え方として成り立ちます。
コースの途中で好きなたねを追加してもいいですか
問題ありません。ただ、巻物や玉子が近づいた終盤に伝えると、職人が流れを組みやすくなります。序盤で濃いたねを追加すると、その後の淡いたねの味が分かりにくくなることがあります。
ガリはいつ食べるのがいいですか
脂の強い一貫や酢の香りが立つ一貫の後に、少しつまむ程度で十分です。毎貫のあいだに食べる決まりはありません。口に残るものを流したいときに手を伸ばせば足ります。
おまかせの順番は店によって違いますか
細部は違います。淡から濃へという骨格は共通していることが多い一方で、白身の並べ方、光り物を出す位置、椀物のタイミングは店ごとの考え方が出るところです。その違いを読むのが、おまかせの面白さでもあります。
コースの途中で残った場合、どうすればいいですか
先に伝えておくと、量や進み方を調整してもらえることがあります。苦手なたねがある場合も、着席のときに伝えておくと流れが崩れません。無理に食べ切ろうとしなくて大丈夫です。
ガイドから、カウンターへ
奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。
江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。
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