豊洲市場のセリで魚を競り落としているのは、たいてい鮨職人ではなく仲卸業者です。海から東京の鮨屋に一尾が届くまでには、漁師、産地の仲買人、卸売業者、仲卸業者と、いくつもの手が魚を選び分けています。この記事では、豊洲の建物の分かれ方、セリと相対取引の違い、仲卸の目利き、そして八月の高水温期に効いてくる産地の処理までを順に見ていきます。観光の案内ではなく、魚が渡っていく道すじの話です。
結論から
豊洲市場では、全国から荷を集めた卸売業者がセリと相対取引で魚を売り、それを買った仲卸業者が鮨屋へ渡します。鮨屋が自らセリで競ることは多くありません。魚を選び抜くのは、店の味を知る仲卸の目です。
この記事でわかること
- 卸売業者と仲卸業者、役割はどこで分かれるか
- セリと相対取引の使い分けと、量で見たときの比重
- 鮪の尾切りに表れる目利きと、仲卸の専門分化
- 八月の高水温期に効く、産地での血抜きと氷での冷却
- 休市日を見越した仕入れと、熟成でつなぐ考え方
- 市場仕入れと産地直送、それぞれで読めるもの
豊洲市場は、魚が「渡される」場所
豊洲市場は東京都の中央卸売市場のひとつで、二〇一八年に築地から移りました。水産の建物は、卸売場棟と仲卸売場棟に分かれています。この建物の分かれ方が、そのまま仕事の分かれ方です。
卸売業者は、全国の産地から送られてきた魚を預かり、値を立てて売る側です。仲卸業者はその魚を買い、鮨屋や料理屋、小売店へ売り分けます。豊洲には数百の仲卸業者が入り、扱う魚種ごとに店が分かれています。外気や雨を遮る閉鎖型に造られたのも、魚の温度を切らさないためです。
海から握りまで、魚が通る道
一尾の魚が東京の鮨屋に届くまで、たいてい四つか五つの手を渡ります。どの段階でも、魚を選ぶ判断と、冷やし続ける仕事が同時に進んでいます。
- 漁師と漁協港に揚がった魚を選別します。活け締めや血抜きの手が入るのは、多くの場合この段階です。
- 産地市場産地でも一度セリにかかり、その土地の仲買人が買い付けます。東京のセリの前に、もう一つのセリがあります。
- 輸送発泡の箱に氷を詰め、車や空の便で東京へ。夜のうちに豊洲へ着く荷が多くあります。
- 卸売業者荷を受けて魚種ごとに並べ、セリや相対取引で値を立てます。
- 仲卸業者買った魚を、店ごとの好みに合わせて選び分け、包んで渡します。
- 鮨屋昼のうちに仕込み、締めや漬け、熟成の時間を計って夕方の営業に合わせます。
セリと相対取引、どちらで魚は動くのか
魚の値の決め方には二つあります。声と手で競り上げるセリと、卸売業者と買い手が話し合って決める相対取引です。
| 項目 | セリ | 相対取引 |
|---|---|---|
| 値の決め方 | 買い手が競り上げ、高い方が買う | 卸売業者と買い手が話し合って決める |
| かかりやすい魚 | 数の限られた高値の魚。生の本鮪など | 日々量のある魚、養殖魚、貝類など |
| 時間帯 | 早朝の短い時間に集中する | 前日の夕方からその日の朝にかけて |
量で見れば、相対取引が大きな割合を占めます。早朝の鮪のセリは市場の顔として知られていますが、市場で動く魚の多くは静かな話し合いで値が決まっています。買う側になれるのは仲卸業者と、許可を受けた売買参加者です。資格を得てセリに加わる鮨屋もありますが、仲卸から買う方がむしろ普通です。
仲卸の目利きは、専門に分かれている
仲卸業者は、扱う魚で細かく分かれています。鮪だけの店、白身と活魚の店、小肌や鯵といった光り物の店、貝の店、穴子や川魚の店。一軒の鮨屋が数軒の仲卸を使い分けるのは、普段からよくあることです。
鮪では、尾を切った断面を見ます。身の照り、脂の差し方、筋の走り方。同じ一本でも背と腹で表情が違い、どの部位をどの店に回すかまで含めて判断されます。光り物なら、時期ごとの脂の乗りと身の締まりを手で確かめます。実は、この見極めは魚を選ぶだけの作業ではありません。
八月の魚を、冷たいまま運ぶということ
八月は水温が高く、魚が弱るのも早い季節です。だからこの時期は、産地での処理がそのまま味に出ます。締めてすぐに血を抜き、氷で芯まで冷やす。ここで手を抜いた魚は、どれだけ急いで運んでも戻りません。
八月のカウンターには、新子や穴子、太刀魚、鮑などが並びます。小さな新子は一貫に何枚も重ねて握るため、仕込みに時間がかかります。
市場には休市日があり、水曜と日曜、祝日が多くなります。休みの前に少し多めに仕入れ、その分を熟成でつなぐ考え方は、江戸前の仕込みと相性のよいものです。鮨 淡師でも、魚種ごとに最適な期間と温度を見極めた熟成を、江戸前の締めや漬けと組み合わせています。慌てて売り切るのではなく、魚ごとに置く時間を決めるという順序です。
市場と産地直送、二つの入口
近年は、産地の漁師や仕立て師から直接魚を送ってもらう仕入れも増えました。市場を通さない分、締めてからの時間が読みやすくなります。一方で、全国の荷が一度に集まる市場でしか出会えない魚もあります。どちらが優れているという話ではなく、両方を使い分ける店が多いのが今の東京です。
鮨は魚を握る仕事であると同時に、命をつなぐ仕事でもあります。漁師が獲り、仲卸が目利きし、仕立て師が手をかけた魚の、最後の受け手が鮨職人です。淡師ではそうした考え方で一尾ごとに向き合い、大将の故郷である九州を中心に、全国から旬の魚を選んでいます。
カウンターで魚の名を尋ねたとき、産地や締め方の話が返ってくることがあります。あれは自慢ではなく、その一貫が渡ってきた道の記録です。難しい知識は要りません。名前と土地を聞くだけで、魚の見え方は変わります。
よくあるご質問
豊洲市場は誰でも見学できますか
見学できる場所は決まっています。鮪のセリを上から見られる場所、通路からの見学、飲食や物販の区画が用意されています。仲卸売場は買い出し人の仕事場なので、入れる時間や経路に制限があり、事前の申し込みが必要な見学もあります。訪れる前に東京都の案内で条件を確かめておくと安心です。
鮨屋は自分でセリに参加しているのですか
多くの店は仲卸業者から買っています。セリに加わるには売買参加者などの資格が必要で、資格を持つ店もありますが少数です。毎朝市場に通って自分の目で選ぶ職人もいれば、長く付き合う仲卸に連絡して頼む職人もいます。どちらが本式ということはありません。
築地から豊洲に移って魚は変わりましたか
受け渡しの仕組みは大きく変わっていません。卸売業者がセリと相対取引で売り、仲卸業者が選び分けるという流れは築地の頃と同じです。変わったのは建物で、閉鎖型になり温度や衛生の管理がしやすくなりました。夏の魚にとっては、この差が効いてきます。
産地直送の魚の方が新鮮なのですか
新鮮さは日数だけでは決まりません。締め方と冷やし方、そしてその魚に合った熟成の時間で味は変わります。市場を経ても産地で丁寧に処理された魚は良い状態で届きますし、直送でも扱いが粗ければ落ちます。日付より、どんな手が入ったかを見る方が近道です。
ガイドから、カウンターへ
奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。
江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。
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