穴子と 鰻の 違いは、 棲む 場所と 火の 入れ方にあります。 穴子は 海の 砂泥底に 潜む魚で、 江戸前では 煮る 。鰻は 川と 海を 行き来する魚で、 串を打って 焼く 。同じ 細長い姿をしていながら、 仕込みに 使う 道具も、 仕上げの 甘辛い タレの 出自も 違います。 この 記事では、 煮穴子ができるまでの 手順と ツメの 正体をたどりながら、 二つの 魚が 別々の 道を 歩いてきた 理由を 見ていきます。
結論から
穴子は 海の 魚、 鰻は 川を 上る魚です。 江戸前鮨で 握るのは 穴子で、 やわらかく煮上げて ツメを 塗るか、 塩で 供します。 鰻は 蒲焼にして 専門店が 扱うのが 一般的で、 鮨屋の 品書きに 並ぶことはあまり 多くありません。
この 記事でわかること
穴子は 海水域、 鰻は 川と 海を 行き来する魚という棲み分け 江戸前で 穴子を 煮る 理由と、 沸かさずに 煮る火加減 ツメは 穴子の 煮汁からできること。 鰻の タレとの 成り立ちの違い ツメと 塩、 供し方で 穴子の 味の 見え方が 変わること 八月の 穴子の 身の 質と、 旬とされる時期 鮨屋の 品書きに 鰻が 並びにくい背景
目次
穴子と 鰻は、 そもそも別の魚
鮨種として使われるのは マアナゴで、 内湾や 沿岸の 砂泥底に 潜んで 暮らす海の 魚です。 一方の ニホンウナギは 川や 汽水域で 育ち、 産卵のために 海へ 下る。 どちらも 細長い姿で、 目が 小さく、 皮に 独特のぬめりがある。 姿が 似ているので 混同されやすいのですが、 育つ水も、 身の 質も 別のものです。
いちばん 大きな差は 脂の 量です。 鰻は 身に 厚く脂がのり、 焼くと 表面から 脂がしたたる。 穴子の 脂は 控えめで、 火を 入れると 身がほろりとほどける。 この差が、 そのまま 調理法の 分かれ道になっています。
穴子 (マアナゴ) 鰻(ニホンウナギ) 棲む場所 内湾や 沿岸の砂泥底 川や 汽水域で 育ち、 産卵は海 脂ののり 控えめで、 身は淡い 厚くのり、 味が濃い 主な火の入れ方 煮る (煮穴子) 焼く(蒲焼) 味の決め手 煮汁と、 そこから 作るツメ 焼きの 香りとタレ 旬とされる時期 初夏から夏 天然は 秋から 冬、 養殖は通年
肝心なところ: 「煮る穴子」と 「焼く鰻」。 加熱の 仕方が 違えば、 目指している味も 違います。
鮨屋の 品書きに 鰻が 少ない理由
江戸前鮨が 育ったのは 江戸湾の 周りで、 穴子は 身近な海の 幸でした。 羽田沖など 東京湾の 穴子は 今も 知られています。 対して鰻は、 串打ちから 割き、 蒸し、 焼きまでを 専門に 修める 仕事として、 早い 時期に 独立した 商売になっていきました。 同じ町の 中で、 扱う店が 分かれていったわけです。
実は 道具も 違います。 鰻は 炭火と 串、 そして 継ぎ足した タレの 壺が 要る。 鮨屋の 場内でその 一式を 持つ 理由は 乏しく、 穴子であれば鍋ひとつで 煮上げられる。 技術と 設備の 両面から、 鮨の カウンターには 穴子が 残りました。 鰻を 出す鮨屋がないわけではありませんが、 多くはありません。
煮穴子ができるまで
穴子の 仕込みは、 下ごしらえの 丁寧さがそのまま 仕上がりに 出ます。 江戸前の カウンターでは、 次のような 手順を 踏むことが 多いようです。
ぬめりを取る 湯をかけ、 包丁の 背で 皮目をこそげる。 ここを 省くと、 煮上がりに 独特の 匂いが 残りやすくなります。 開いて骨を抜く 背から 開き、 中骨と 血合いを 取り除く。 細い骨が 残らないよう指で 確かめながら進めます。 霜降りにする 熱湯にさっとくぐらせ、 余分な脂と 匂いを 流してから 冷水に取る。 静かに煮る 水に 酒、 醤油、 ざらめなどを 合わせ、 落し蓋をして沸かさずに 煮る。 強く 煮立てると 身が 割れて 崩れます。 煮汁の 中で冷ます 火を 止め、 煮汁に 浸したまま冷ましていく。 冷める間に 味が 身へ 入っていきます。
煮る 時間も 温度も、 穴子の 大きさと 脂ののりで 変わります。 同じ鍋でも、 太いものと 細いものを 一緒には 煮られない。 奥赤坂の 鮨 淡師 では、 仕込みは 目的ではなく、 その魚が 一番おいしくなる 瞬間に 近づけるための 手段だという 考え方で 仕事をしています。 煮る 仕事も、 その 延長にあります。
ツメは、 煮汁の 行き着く先
ツメは 「煮詰める」から 来た 言葉です。 穴子を 煮た汁を 漉し、 とろみがつくまで 煮詰めた 甘辛い タレを 指します。 つまり、 穴子そのものから 出た 旨みが 濃縮されている。 刷毛で 薄く 塗るだけで、 身の 味とつながるのはそのためです。
鰻の タレは 出自が 違います。 焼く 過程で 串を 漬け、 滴った脂が 壺に 落ちて、 その 繰り返しの 中で 育っていく。 ツメは 煮汁から、 タレは 焼きから 生まれた。 似た色をしていても、 来た道が 別なのです。
ツメか、塩か
煮穴子は ツメを 塗るとは 限りません。 塩をひとつまみ、 あるいは 柚子やすだちを 絞って 供する店もあります。 ツメは 甘みで 穴子を 包み、 塩は 身の 淡さと 煮汁の 香りをそのまま立たせる。 どちらが 上ということではなく、 その日の 穴子をどう見せたいかの 判断です。
大ぶりの 一尾を 丸ごと 一貫に 仕立てる 「一本付け」もあれば、 半分に 切って二貫にすることもある。 皮目を 軽く炙って香ばしさを 足す 仕事も、 江戸前ではよく 見かけます。
八月の穴子
穴子は 梅雨のころから 夏にかけてが 良いとされ、 この 時期のものは 「梅雨穴子」と 呼ばれることもあります。 八月の 穴子は 身がやわらかく、 脂は 上品にのる。 冬の 脂の 厚さとは 違う、 軽やかな 旨みです。
夏の 献立の 中で、 煮穴子は 温度でも効いてきます。 冷たい 白身や 酢締めが 続いたあと、 ほのかに 温かい 穴子がひとつ 入ると、 口の 中の 景色が 変わる。 冷房の 効いた 店内で、 その 温度差が 気持ちよく 感じられる 季節です。
コースのどこで 出てくるか
煮穴子はおまかせの 終盤に 置かれることが 多い 一貫です。 鮪や 光り物の 山場を 越え、 玉子や 巻物へ 向かう 手前。 甘みのある ツメが、 そこまでの 流れをいったん 収める 役目を 果たします。 握られてから 供されるまでが 短いので、 出されたらあまり 待たずにいただくのがよさそうです。
気負う 必要はありません。 ツメが 塗ってあれば 醤油はつけず、 そのまま口へ 運べば 大丈夫です。 淡師では 食事の 締めくくりに 本格的な 茶室で 抹茶と 季節の 和菓子をいただけますが、 その 一服へ 向かう 道筋の 中に、 穴子の 甘みは 静かに 収まっています。 ほかの 鮨種の話は The Tokyo Sushi Guide にもまとめています。
よくあるご質問
穴子と 鰻、 味の違いは? 鰻は 脂が 厚く、 焼いた香ばしさと タレの 濃さで 押してきます。 穴子は 脂が 控えめで、 身がほろりとほどけ、 煮汁の 含んだ 淡い旨みが 主役です。 同じ 甘辛い 味付けでも、 鰻は 「濃い」、 穴子は 「やわらかい」と 感じる方が 多いようです。
鮨屋で 鰻は 頼めますか? 扱っている店もありますが、 多くはありません。 鰻は 串打ちから 焼きまでの 設備と 技術を 要する 専門の 仕事で、 江戸前鮨の カウンターでは 穴子が 使われるのが 一般的です。 鰻を 味わいたいときは、 鰻の 専門店を 訪ねる方が 確実です。
ツメは 何でできているのですか? 穴子を 煮た 煮汁を 漉し、 砂糖や 醤油を 加えて煮詰めた タレです。 穴子そのものから 出た 旨みが 濃縮されているため、 少量 塗るだけで 身の 味と 自然につながります。 鰻の タレのように、 焼きの 過程で 作られるものとは 成り立ちが 異なります。
穴子は 生で 食べないのですか? 穴子や 鰻の 血液には 加熱で 失われる 成分が 含まれるため、 生のまま扱わないのが 通例です。 江戸前では 煮る、 あるいは白焼きにするといった 火を 入れる 仕事が 基本になります。 刺身で 見かけることが 少ないのは、 この 性質によるところが 大きいと 言われます。
煮穴子は 温かい 状態で 出ますか? ほんのり 温かい 状態で 握られることが 多いようです。 煮上げてから 温度を 保っておき、 握る 直前に 整える。 冷えた 白身との 温度差が 味の 変化になるため、 供されたら間を 置かずにいただくと 持ち味が 分かりやすくなります。
監修
髙田 達央
江戸前の 伝統に 学び、 九州に 根を 持つ髙田 達央が、 東京・ 奥赤坂の 八席のおまかせ カウンターに 立ちます。 The Tokyo Sushi Guide の監修者です。