鮨の締めはなぜ熱い緑茶なのか|あがりと粉茶の役割

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

鮨屋で最後に出てくる熱い茶は「あがり」と呼ばれ、多くの場合、煎茶ではなく粉茶が使われます。単なる食後の一杯ではありません。口に残る脂を流し、一貫ごとの味の輪郭を保つための茶です。粉茶が選ばれる理由、湯呑みが厚く大きい理由、そしてあがりと抹茶の役割の違いまでを順に見ていきます。

結論から

鮨屋の締めの茶は粉茶です。粉茶は茶葉の細かい部分を集めたもので、熱湯を注いで十数秒で濃く出ます。その渋みと熱さが口に残る脂を流し、次の一貫や食後の余韻を整えます。「あがり」は本来、店側が使ってきた符丁で、客は「お茶」と呼んで構いません。

この記事でわかること

  • 「あがり」は店側の符丁で、客は「お茶」と言えば十分に通じる
  • 粉茶は茶葉の細かい部分。十数秒で濃く、渋みのある茶になる
  • 熱さと渋みが、中トロや穴子のあとの脂を口から流す
  • 湯呑みが厚く背が高い理由と、熱いときの持ち方
  • 粉茶・煎茶・玉露・抹茶の原料と淹れ方の違い
  • 口を流すあがりと、時間を締めくくる抹茶の役割の差
目次

「あがり」は客の言葉ではなく、店の符丁だった

「あがり」は、もともと鮨屋の符丁です。店で最初に出す茶を「お出花」、最後の茶を「上がり花」と呼んだ名残とされ、客が使うために生まれた言葉ではありません。普段の食事どおり「お茶をください」と言えば十分に通じますし、そのほうが自然に響く場面も多いようです。

符丁を使わないと通ぶれない、と気負う必要はありません。カウンターで大切なのは呼び方ではなく、出てきたものを温かいうちにいただくことです。言葉を間違えることを恐れて黙ってしまうより、素直に頼むほうがずっと気持ちよく食べられます。

肝心なところ: 「あがり」は店側の言葉。客は「お茶」で構いません。

粉茶が選ばれる理由

粉茶は、煎茶や玉露を仕上げる工程でふるい分けられた、細かい茶葉を集めたものです。粉といっても抹茶のような粉末ではなく、茶葉そのものが細かく砕けた状態を指します。湯に触れる面が大きいぶん成分がすぐに出て、十数秒で濃く、渋みの立った茶になります。

この速さが、カウンターでは実は大きい。職人は握りながら茶を用意します。何分も蒸らす茶では間に合わず、注いですぐ濃く出る粉茶が理にかなっています。甘みより渋みが前に出ることも、脂を切るという目的に合っています。

茶の種類原料淹れ方鮨屋での位置づけ
粉茶煎茶などの仕上げで出る細かい茶葉熱湯を注ぎ十数秒で濃く出す締めのあがりに使われることが多い
煎茶蒸して揉んだ茶葉70〜80度で一分ほど香りを楽しむ茶。食事中に出す店もある
玉露日覆いをして育てた茶葉50〜60度でゆっくり旨味が強く、鮨の後にはやや重い
抹茶碾茶を石臼で挽いた粉湯を注ぎ茶筅で点てる茶室で締めくくりにいただく

熱さと渋みが、口に残る脂を流す

熱さにも渋みにも役割があります。中トロや〆鯖、煮きりを塗った穴子のあとには、口の中に脂や甘みが残ります。人肌よりずっと熱い茶は、その脂を流し、舌をいったん平らに戻します。後を引かない渋みが残ることで、次の一貫は前の一貫の記憶に邪魔されずに立ち上がります。

八月のカウンターには、脂の乗った鰺や鰹、じっくり煮上げた穴子が並びます。冷房の効いた店でも締めの茶を熱いまま出すのは、脂が冷えて口に残るのを避けるためでもあります。冷たい飲み物では、この働きは望みにくくなります。

肝心なところ: 熱い茶は口を整える道具であり、冷たい飲み物とは役割が違います。

湯呑みが厚く、背が高く、取っ手がない理由

鮨屋の湯呑みは、厚手で背が高く、取っ手がありません。厚みは湯が冷めにくいため、背の高さは一度に多く注げるため、といわれます。職人は握りに集中しているので、何度も注ぎ足さずに済む形が選ばれてきました。

熱くて持てないときは、慌てて持ち上げずに少し置いてから両手で支えると安心です。縁の近くではなく底に近いほうを持つと、熱が伝わりにくくなります。湯呑みは付け台の手前、利き手側に置く方が多いようです。手元が空くと、次の一貫を受け取りやすくなります。

一杯目と締めの一杯は、役割が違う

同じ茶でも、出される場面によって働きが変わります。店によっては最初は薄めに、締めは濃いめに淹れ分けます。食事の途中で頼むのも無作法ではありません。脂の強い一貫が続いたあとに一口含むと、後半の白身や貝の繊細さがよく分かります。

  1. 席に着いて一杯目口と体を温め、これから始まる食事に向けて舌を落ち着かせます。
  2. 握りの途中脂の濃い一貫のあとに含むと、続く淡い魚の輪郭が戻ります。
  3. 締めの一杯濃く熱い粉茶で脂を流し、その日の味の記憶をまとめます。

あがりの先にある抹茶

粉茶は「淹れる茶」、抹茶は「点てる茶」です。粉茶は茶葉を湯で抽出して葉を残しますが、抹茶は碾茶を石臼で挽いた粉を湯に溶かし、茶筅で点てて茶葉ごといただきます。渋みで口を流すあがりに対して、抹茶は苦みと甘みが濃く、和菓子と合わせて時間そのものを締めくくる茶です。

東京・奥赤坂の鮨 淡師では、食事の締めくくりに本格的な茶室で抹茶と季節の和菓子をいただけます。同店は、料理も日本酒も器も、最後の一服までが重なって一つの時間になるという考え方で仕事をしています。カウンターから茶室へ移ると、口の中だけでなく、その日の時間が静かに整います。

よくあるご質問

「あがり」と自分から言ってもいいですか

言っても差し支えありませんが、もともとは店側の符丁です。「お茶をください」で十分に通じますし、そのほうが構えずに聞こえます。呼び方で評価されることはありません。

鮨屋のお茶はなぜあんなに熱いのですか

口に残る脂を流すためです。人肌程度の温度では脂が舌に残りやすく、次の一貫の味がぼやけます。熱くて持てないときは、少し置いてから両手で持つと落ち着いて飲めます。

粉茶と抹茶は何が違いますか

粉茶は煎茶などの仕上げで出る細かい茶葉で、湯で抽出して飲みます。抹茶は碾茶を石臼で挽いた粉で、茶筅で点てて茶葉ごといただきます。同じ緑茶でも原料も飲み方も別のものです。

お茶のおかわりを頼んでも大丈夫ですか

大丈夫です。湯呑みが空いたら声をかけて構いませんし、職人や店の方が気づいて注いでくれることも多いです。手が離せない場面もあるので、少し待つ心づもりでいると気楽です。

食事中に冷たいお茶やビールを頼んでもいいですか

問題ありません。夏場は冷たい茶を用意している店もあります。ただ締めの一杯だけ熱い茶にすると、脂が流れて後味がすっきりします。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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