コハダはなぜ江戸前の試金石なのか。塩と酢の仕事と、七月の新子

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|奥赤坂 鮨 淡師 更新 読了 約6分

コハダほど、職人の手のうちが正直に表れる魚はありません。値の張る魚ではないのに、江戸前の鮨屋では昔から腕の物差しとされてきました。この記事では、コハダが試金石と呼ばれる理由、塩と酢で締める仕事の中身、そして七月に始まる新子の季節までをご紹介します。

この記事でわかること

  • コハダが「江戸前の試金石」と呼ばれる理由
  • 新子・コハダ・ナカズミ・コノシロと変わる呼び名(出世魚)
  • 塩と酢で締める仕事の流れと、加減を決める要素
  • 七月に始まる新子の季節と「数枚付け」の意味
  • おまかせの中でコハダが出てくる場面と味わい方
目次

鮨屋の実力はコハダを見ればわかる

古くから、そう言われてきました。理由は単純で、コハダは仕入れ値の差で語れる魚ではないからです。マグロのように素材そのものの力で押し切れない分、塩の当て方、酢の浸し方、包丁の入れ方といった手の仕事だけが味を決めます。隠れる場所がない。だからこそ、職人は生涯コハダに向き合い続けます。

光り物のなかでも、コハダは締め加減の幅がとりわけ広い魚です。同じ日の同じ魚を使っても、店ごとにまるで違う一貫になります。食べ比べる楽しみが最も大きい鮨種のひとつです。

新子からコノシロへ。名前が変わる魚

コハダは成長とともに呼び名が変わる出世魚です。夏に生まれた稚魚が新子、少し育つとコハダ、さらに大きくなるとナカズミ、成魚はコノシロと呼ばれます。面白いのは、大きくなるほど値が下がること。鮨種として尊ばれるのは、小さく手間のかかる新子とコハダの方です。

呼び名大きさの目安鮨種としての扱い
新子4〜7cmほど七月頃に出はじめる走り。数枚付けで握る
コハダ7〜10cmほど一枚付けの定番。仕事の見せどころ
ナカズミ13cmほど半身に切り付けて使われることも
コノシロ15cm以上小骨が強く、鮨種よりも焼き物などに向く

塩と酢の仕事。レシピではなく判断

コハダの仕込みは、開いて塩を当てるところから始まります。塩は余分な水分と臭みを引き出し、身を引き締めます。そのあとに酢へ。難しいのは、塩も酢も「何分」と決められないことです。魚の大きさ、脂ののり、その日の気温で、適切な時間は毎日変わります。

  1. 開いて塩を当てる大きさと脂を見て、塩の量と時間を決めます。
  2. 洗って塩を落とす余分な塩気を抜き、身の状態を確かめます。
  3. 酢に浸す締め加減の要。浅ければ生々しく、深ければ硬くなります。
  4. 寝かせる酢から上げてひと呼吸置き、味を落ち着かせます。
肝心なところ: 塩と酢の加減に決まったレシピはなく、その日の魚を見て判断を重ねること自体が江戸前の仕事です。

七月、新子の季節が始まる

七月、鮨屋のカウンターに新子が届きます。体長数センチの小さな魚で、一貫に二枚、三枚と重ねて握る数枚付けにします。小さいほど開くのも締めるのも難しく、仕込みの手間は普段のコハダの比ではありません。それでも走りの新子を心待ちにする方が多いのは、この時期にしか出会えない淡く繊細な味わいがあるからです。

奥赤坂の鮨 淡師でも、新子が届く七月は仕込み場の空気が変わります。締め・漬けといった江戸前の古典的な仕事を守る店にとって、新子は一年の節目のような存在です。

カウンターでのコハダの味わい方

おまかせでは、コハダは中盤に出てくることが多いようです。酢で締めてあるため醤油は控えめで足り、煮きりを塗って出す店なら、そのまま口に運ぶだけで完結します。手でも箸でも、普段の食べやすい方で大丈夫です。銀色の皮目に入った飾り包丁は見た目のためだけではなく、身のほどよい締まりを口当たりへ整える意味もあります。

酢の酸味と日本酒

酢で締めたコハダは、日本酒との相性を語られることの多い鮨種です。酸のしっかりした生酛系や、すっきりとした純米酒を合わせる方が多いようです。一貫ごとに酒を替える楽しみは、コハダで最も分かりやすく感じられるかもしれません。迷ったら、カウンター越しに気軽に尋ねてみてください。

よくあるご質問

新子はいつからいつまで食べられますか?

例年、七月頃から出はじめ、八月にかけてが中心です。成長の早い魚なので、走りの小さな新子に出会える期間は短く、数週間で終わることもあります。

コハダとコノシロは同じ魚ですか?

同じ魚です。成長段階で呼び名が変わり、新子、コハダ、ナカズミ、コノシロの順に大きくなります。鮨種として使われるのは主に新子とコハダで、大きなコノシロは小骨が強く、焼き物などに向くとされます。

光り物が苦手でも、コハダは食べられますか?

光り物の印象は店の仕事で大きく変わります。浅めに締めたコハダは酢の角が立たず、驚くほど食べやすいことがあります。苦手と伝えたうえで一貫だけ試してみるのも、カウンターならではの楽しみ方です。気負わなくて大丈夫です。

新子はなぜ高いと言われるのですか?

数センチの魚を一枚ずつ開いて締めるため、一貫あたりの手間が非常に大きいからです。走りの時期は入荷そのものが少なく、希少性も重なります。値段の中身は魚代というより、職人の時間だと考えると分かりやすいかもしれません。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ鮨 淡師の大将

監修

鮨 淡師 大将

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ大将が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の版元です。

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