鮨と日本酒の合わせ方。淡麗辛口の通説を離れて、三つの原則で選ぶ

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|奥赤坂 鮨 淡師 更新 読了 約6分

鮨には淡麗辛口の酒、と聞いたことがある方は多いと思います。間違いではないのですが、その一本だけで白身から中とろまで寄り添うのは、実は難しいことです。この記事では、銘柄の知識を前提にせず、酢飯の酸・タネの脂・香りの強さという三つの原則だけで酒を選ぶ方法をまとめました。読み終える頃には、カウンターで一杯目を頼む言葉が決まっているはずです。

この記事でわかること

  • 「鮨には淡麗辛口」という通説が生まれた理由と、その限界
  • 酢飯の酸に、生酛や山廃など酸のある酒を寄り添わせる考え方
  • 脂の強いタネを受け止める、旨口の純米酒とぬる燗の使い方
  • 香りの華やかな酒を「取っておく」場面の見分け方
  • 七月のあじ・いわし・すずきで試せる具体的な組み合わせ
  • 銘柄を知らなくても気負わずに頼める、カウンターでの言い方
目次

「淡麗辛口なら間違いない」を、少し疑ってみる

「鮨には淡麗辛口」。長く定番とされてきた言い方です。香りも味も控えめな酒なら、どのタネの邪魔もしない。理屈としては通っていますし、選んで間違いというわけでもありません。ただ、カウンターで一貫ずつ食べ進めていくと、どこかで物足りなさを覚える瞬間があります。淡麗辛口は「外さない」選び方であって、「合わせる」選び方ではないからです。

鮨は白身から貝、光り物、まぐろ、煮物まで、一晩のうちに味の幅が大きく動く食事です。実は、その全部にひとつの酒で寄り添うのは難しいことです。そこで、銘柄の知識ではなく、原則を三つだけ覚えておくという方法があります。

肝心なところ: 酒は「酢飯の酸」「タネの脂」「香りの強さ」の三点で選ぶと、銘柄を知らなくても大きく外しません。

原則一: 酢飯の酸には、酸のある酒を

握りの半分は酢飯です。米酢や赤酢の酸味と穏やかな甘みが、すべての一貫の土台になっています。ここに酸の少ない酒を合わせると、酒だけが平板に感じられることがあります。逆に、生酛や山廃、白麹を使った仕込みのように酸のしっかりした酒は、酢飯と同じ方向を向くので、口の中で味がひとつにまとまります。

たとえば生酛造りで知られる新政のような酒は、乳酸由来のやわらかな酸が酢飯の輪郭と重なります。まずは「生酛」「山廃」という文字を目印にするだけでも、選び方は変わってきます。

原則二: 脂の強いタネには、旨口を

中とろやいわしのように脂ののったタネに淡麗な酒を合わせると、酒が流されて、口に脂だけが残ることがあります。ここで働くのが旨口、つまり米のうまみとふくらみのある純米の酒です。脂を洗い流すのではなく、うまみ同士を重ねて受け止める。飛露喜のような、きれいでいて厚みのある酒がこの役どころです。

温度も味方になります。同じ酒でも、ぬる燗にするとうまみがほどけて、煮穴子や漬けのまぐろに寄り添いやすくなります。夏でも燗を置く店は少なくありません。

原則三: 香りの華やかな酒は、主役を選んで

華やかな香りの大吟醸は、それ自体が主役になれる酒です。十四代のような香り高い一本を白身の昆布締めに合わせると、タネの繊細な甘みが香りに覆われてしまうことがあります。香りの立つ酒は、玉子や穴子のツメ、うにのように味の輪郭がはっきりした場面に取っておくと、双方が生きます。

難しく考える必要はありません。繊細なタネには香りを控えめに、味の濃い一貫には華やかに。香りの静かな酒から始めて後半に香りのある酒へ進むと、一晩の流れも自然にできあがります。

七月のカウンターで試すなら

七月は夏の魚が揃う月です。あじやいわしは脂がのり、すずきは昆布締めで涼しげに出てきます。三つの原則を当てはめると、組み合わせは自然に決まります。

タネ酒の方向理由
あじ・いわし旨口の純米(ぬる燗も)青魚の脂とうまみを、厚みのある味で受け止める
すずきの昆布締め香り控えめで酸のある酒昆布のうまみと繊細な甘みを、香りで覆わない
煮穴子香りの華やかな酒ツメの甘みと香りを重ねて、終盤を締めくくる

奥赤坂の鮨 淡師のように一貫ごとに酒を合わせる提案をしている店では、この原則をそのまま体験できます。津本式を取り入れた熟成の仕事は魚のうまみが深まるぶん、合わせられる酒の幅も広がります。

気負わずに頼むために

銘柄がわからなくても、心配はいりません。カウンターでは「酸のある酒を」「脂の強いタネに合うものを」と、方向だけ伝える方が多いようです。作り手はその一言から選べますし、そこから会話が生まれる分、一杯の意味も深まります。

量は少しずつが向いています。おまかせは十数貫続くので、最初から一合を空けるより、半合ずつ替えていく方が最後の一貫まで楽しめます。普段あまり日本酒を飲まない方は、一杯目を大将に任せてしまうのもよい方法です。慌てて決める必要は、どこにもありません。

よくあるご質問

鮨に合う日本酒は、結局「辛口」を選べばいいのでしょうか?

辛口を選ぶこと自体は間違いではありませんが、甘辛だけで決めると合わない一貫が出てきます。酢飯の酸に寄り添う酸があるか、脂を受け止めるうまみがあるか、香りが強すぎないか。この三点で見る方が、結果として外れが少なくなります。

日本酒に詳しくないのですが、カウンターで何と言って頼めばいいですか?

銘柄名は要りません。「酸のあるものを」「次の脂の強いタネに合うものを」と方向だけ伝えれば十分ですし、一杯目を大将に任せる方も多くいらっしゃいます。気負わなくて大丈夫です。

熟成させた魚には、どんな酒が合いますか?

熟成でうまみが深まった魚には、淡麗な酒より、うまみのある旨口の純米やぬる燗が寄り添いやすくなります。津本式などの熟成を仕事にしている店なら、そのタネに合わせた酒を提案してもらえるので、任せてみるのも一つの方法です。

おまかせの途中で酒を替えてもいいのでしょうか?

ごく普通のことです。白身から光り物、まぐろ、煮物へと味が動くのに合わせて、半合ずつ替えていく方がむしろ流れに沿います。遠慮せず、そのときの一貫に合わせてお願いしてみてください。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ鮨 淡師の大将

監修

鮨 淡師 大将

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ大将が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の版元です。

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