究極の血抜きは味の何を変えるのか。臭み、水分、時間

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

究極の血抜きは、魚の血を水の力で押し出す仕立ての技術です。工程の手順そのものより、読者の関心は「それで味はどう変わるのか」にあると思います。この記事では、血が残った身に何が起きるか、水を通しても水っぽくならないのはなぜか、そして熟成に置ける時間がどう変わるかを、香り・水分・時間の三点から順に見ていきます。

結論から

究極の血抜きが変えるのは、身に残る血の量です。血に由来する鉄のような香りが減り、余分な水分の抜け方が整い、低温で数日置いても味が崩れにくくなります。違いは口に入れた瞬間より、飲み込んだあとの余韻にはっきり表れます。

この記事でわかること

  • 生臭さの多くは身ではなく残った血から立つ理由
  • 血管に水を通しても身が水っぽくならない仕組み
  • 血抜きが「日持ち」ではなく「熟成に置ける時間の幅」を広げること
  • 味の変化が表れる三つの段階(立ち上がりの香り、噛んだ水分、余韻)
  • 青魚・白身・大型魚で効きかたが違うところ
  • 仕立てる人と握る人の分担、カウンターでの尋ね方
目次

血が残った身は、まず香りに出る

鮨だねの生臭さとして語られる香りは、身そのものより、身に残った血から立っていることが多いと言われます。鰺や鰹のように血合いの発達した魚では、その差が分かりやすく出ます。

血は時間が経つほど香りが変わりやすく、低温に置いていても、置いた分だけ香りが前に出てきます。仕立ての段階でどれだけ血を抜けているかが、数日後の一貫の印象を決めている部分は小さくありません。魚が新しいかどうかとは、別の話です。

肝心なところ: 血抜きの効き目は、口に入れた瞬間よりも、飲み込んだあとに残る香りに表れやすいところにあります。

水を通しても、水っぽくならない

究極の血抜きと呼ばれる仕立てでは、動脈に水を送り込み、毛細血管に残った血を身の外へ押し出します。水を入れるのだから身が水を吸うのでは、と心配される方が多いようです。

水が通るのは血管の中で、身の細胞に水を含ませる作業ではありません。しかも水を通したあとには、血と水を抜き切り、紙などで包んで低温に置く工程が続きます。ここで余分な水分が少しずつ出ていくため、仕立ての良い魚はむしろ身が締まり、握ったときに崩れにくくなる傾向があります。

水分が抜けるということは、味が濃くなるということでもあります。同じ魚でも、噛んだときに舌へ広がるのが水気か味かで、一貫の印象は変わります。

変わるのは日持ちより、置ける時間の幅

血が残っている魚は、旨味が乗るより先に香りが立ってしまい、置ける時間が短くなりがちです。血を抜いておくと香りが立つまでの猶予が延び、味の変化を待つ時間を取りやすくなります。

つまり血抜きは、長く置くための技術というより、いつ出すかを選べるようにする技術に近いものです。二日で切るのか、一週間待つのかを、魚の状態を見ながら決められるようになります。

鮨 淡師では、仕立てを受け取ってからの熟成を仕事の中心に置き、魚種ごとに置く期間と温度を見極めている。熟成そのものが目的ではなく、その魚が一番おいしくなる時点を選ぶための手段だという考え方が、その底にあります。

味のどこに表れるか

違いは、一貫を食べ終わるまでの間に三度あらわれます。順に追うと、どこを見ればよいかが分かりやすくなります。

  1. 立ち上がりの香り鼻へ抜ける香りが澄み、魚そのものの甘い香りが分かりやすくなります。
  2. 噛んだときの水分水気が先に広がるのでなく、噛むほどに味が出てくる感触に近づきます。
  3. 飲み込んだあとの余韻鉄のような後味が退き、煮切りの香りとシャリの酸が最後まで残ります。

余韻が澄むと、次の一貫に移るときの切り替えも軽くなります。おまかせの流れが最後まで重く感じられないかどうかは、こうした一つ一つの後味の積み重ねに左右されます。

魚によって効きかたが違う

血抜きの効果は、どの魚にも同じように出るわけではありません。血合いの大きさと身の淡さによって、味のどこに差が出るかが変わります。

魚の種類血の残りやすさ味に表れやすいところ
鰺・鰹などの青魚血合いが大きく、血が残りやすい後味の鉄っぽさ、香りの立ち方
鱸・真鯛などの白身身が淡く、わずかな香りも目立つ水分の抜け方、噛んだときの甘み
鮪・鰤などの大型魚血の量が多く、抜けきるまでに手間がかかる熟成に置ける期間の幅

八月の台には、鰺や鱸、新子といった夏の魚が並びます。この時期は魚の身が緩みやすく、仕立ての差がそのまま口当たりに出やすい季節でもあります。

仕立てる人と、握る人

一尾の魚は、漁師の手から仲卸、仕立てをする人、そして鮨職人へと渡っていきます。血を抜き、神経を締めるところまでは、多くの場合、産地や仕立ての専門家の仕事です。握り手が船の上の作業まで担うことは、まずありません。

鮨 淡師も仕立てを受け取る側に立ち、届いた魚をどう寝かせ、どこで握るかに仕事を絞っている。最後に受け取る者として一尾に向き合うという姿勢が、その仕事の根にあります。店の考え方としても、そこは変わりません。

カウンターで「この魚はどんな仕立てですか」と尋ねてみても、気負う必要はありません。手が空いた頃合いに一言添えるだけで、その日の一貫の背景が見えてくることがあります。

よくあるご質問

究極の血抜きをした魚は、普通の魚と味が違いますか

違いが出やすいのは香りと後味です。血に由来する鉄のような香りが減るため、飲み込んだあとに魚の甘みが残りやすくなります。口に入れた瞬間の差は、思ったより小さいことも多いです。

水を入れると身が水っぽくなりませんか

水が通るのは血管の中で、身に水を含ませる作業ではありません。そのあとに水分を抜いて低温で保存する工程が続くため、仕立ての良い魚はむしろ身が締まる傾向があります。

血抜きした魚は、どのくらい寝かせられますか

魚種と状態で大きく変わります。淡い白身は数日で頃合いを迎えることが多く、鮪や鰤のような大型魚では一週間以上置く場合もあります。日数そのものより、香りと身の締まりを見て決めるのが一般的です。

神経締めと血抜きは同じものですか

別の作業です。神経締めは死後の硬直の進み方を遅らせるための処置で、血抜きは身に残る血を減らすための処置です。両方を組み合わせて仕立てることが多く、味に表れる場所もそれぞれ違います。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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