シャリの温度は「人肌」が目安。シャリ切りと保温に宿る鮨職人の仕事

監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主)

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シャリの温度は、江戸前の握りで「人肌」と言い表されます。冷たいネタと温かなシャリが口の中で一緒にほどけるとき、その温度の差が旨みと酢の香りを引き立てます。この記事では、人肌が好まれる理由と、炊き上がりから握るまでのシャリ切りの手順、そして一晩の営業を通して温度を保つ工夫を、カウンターの内側から順にたどります。

結論から

握りのシャリは、体温に近い「人肌」が目安です。冷えると米が硬く締まり、熱すぎるとネタの脂が緩みます。その温度は、炊き上がり直後のシャリ切りと、営業中の保温の工夫によって保たれています。

この記事でわかること

  • シャリが人肌とされる理由と、でんぷんの硬化の関係
  • 温度ごとのシャリの状態と、口の中での違い
  • 飯台・合わせ酢・うちわを使うシャリ切りの手順
  • おひつと炊き分けで温度を保つ営業中の工夫
  • 10月の新米をシャリにするときの調整
  • カウンターで握りを受け取ってからの、ちょうどよい間合い
目次

シャリが「人肌」とされる理由

人肌とは、おおむね体温前後で、手で触れても熱いとも冷たいとも感じない温かさを指す言葉です。温度計で管理する店もあれば、職人の手の感覚で見極める店もあります。

温度が大切な理由は、米のでんぷんにあります。炊いた米は冷えるにつれてでんぷんが硬くなり、粒が締まって口の中でほどけにくくなります。この変化はでんぷんの老化と呼ばれます。反対に熱すぎると、ネタの脂が緩んで身の輪郭がぼやけ、酢の香りも立ちすぎてしまいます。

シャリの温度シャリの様子口の中で起きること
冷えすぎ粒が硬く締まるほどけにくく、酸味がとがって感じられる
人肌粒がふっくらとまとまるネタと一緒にほどけ、香りと旨みが重なる
熱すぎ粘りが出てべたつくネタの脂が緩み、身の締まりが失われる
肝心なところ: ネタは冷たく、シャリは温かく。この温度の差も、握りの味わいの一部です。

炊き上がりからのシャリ切り

シャリ切りは、炊きたての米に合わせ酢をなじませる作業です。米は熱いうちのほうが酢をよく吸うため、炊き上がるとすぐに取りかかるのが一般的です。

  1. 飯台を湿らせるさわらなどの木の飯台を水で湿らせ、米が張りつくのを防ぐ。
  2. 米をあける炊きたての米を一度に移し、平らに広げる。
  3. 合わせ酢を回しかける熱いうちに全体へ回しかけ、米に吸わせる。
  4. 切るように混ぜるしゃもじを縦に入れ、粒をつぶさないよう切り混ぜる。
  5. あおいで湿気を飛ばすうちわで扇ぎ、表面の余分な水気を飛ばして艶を出す。

うちわで扇ぐのは、冷ますためというより余分な水分を飛ばすためと説明されることの多い工程です。扇ぎすぎると人肌を下回ってしまうため、手早さが求められます。

合わせ酢と温度の関係

酢の香りは、温度によって感じ方が変わります。温かいシャリでは香りがやわらかく立ち、冷えると酸味が舌に鋭く残りやすくなります。赤酢のシャリは色と香りに厚みがあるぶん、冷めると重たく感じられることがあり、温度にいっそう気を配る職人もいます。

鮨 淡師では、赤酢と米酢を合わせ、性質の異なる二種類の塩を使い分けてシャリを仕立てています。酢と塩の組み立てが違えば、おいしく感じられる温度の幅も少しずつ変わってきます。

営業中に温度を保つ工夫

切り終えたシャリは、おひつに移して保温します。木のおひつは余分な湿気を吸い、乾きすぎも防ぐため、今も多くのカウンターで使われています。昔ながらの店では、藁で編んだ保温用のかごにおひつを収めることもあります。

一晩じゅう同じシャリを使い続けると、時間とともに温度も食感も変わっていきます。そのため営業の途中で米を炊き分け、改めてシャリ切りをする店も少なくありません。手元には小ぶりのおひつを置き、大きな容器から少しずつ補う形もよく見られます。

一貫ごとにおひつのふたを閉める。手酢で手を湿らせてからシャリを取る。こうした小さな所作も、温度と乾きを守るための仕事です。

10月の新米とシャリ

10月は新米が出回る季節です。新米は香りが豊かな一方で水分が多く、粒がやわらかいぶん、酢を吸いにくいと言われます。そのため鮨店では、水加減を控えめにしたり、前年の米を合わせたりして、粒の立つシャリに整えることがあります。

秋口に、シャリの硬さや温かさが普段と少し違うように感じられたら、それは米の替わり目に職人が調整を重ねている跡かもしれません。

カウンターで温度を味わうには

シャリの温度は、握られた瞬間から少しずつ下がっていきます。目の前に置かれたら、あまり間を置かずに口へ運ぶと、職人が見極めた温度に近いまま味わえます。会話の途中でも、まずひと口いただいてから話を続ける方が多いようです。慌てる必要はなく、気負わなくて大丈夫です。

漁師から仲卸、仕立て師へと受け継がれてきた魚を、一番おいしい瞬間に供する。淡師ではそうした考え方で仕事をしており、シャリの温度はその最後の一手にあたります。

よくあるご質問

寿司のシャリは温かいのが普通ですか

江戸前の握りでは、人肌程度の温かさが普通です。作り置きの寿司のシャリが冷たく感じられるのは、多くの場合、時間がたって温度が下がっているためです。

シャリの人肌は何度くらいですか

おおむね体温前後を目安にするという説明が多く見られます。厳密な数字は店ごとに異なり、温度計で管理する店もあれば、職人の手の感覚で見極める店もあります。

シャリ切りでうちわであおぐのはなぜですか

冷ますためというより、余分な水分を飛ばしてシャリに艶を出すためと説明されることが多い工程です。扇ぎすぎると人肌を下回るため、手早く済ませます。

出された握りはすぐに食べたほうがいいですか

シャリの温度は時間とともに下がるため、あまり間を置かずに口へ運ぶと、温かさとネタの冷たさの差を味わいやすくなります。慌てる必要はなく、ご自分の間合いで大丈夫です。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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