鮨屋の符丁、むらさき・ガリ・あがりは客が使っていい?カウンターの言葉の線引き

監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主)

The Tokyo Sushi Guide の特集 更新 読了 約6分 お品書きを見る →

むらさき⁠(醤油)、あがり⁠(お茶)、おあいそ(お会計)は、鮨屋の符丁として知られる言葉です。ただ、これらはもともと店の内側の言葉で、客が覚えて使う必要はありません。この記事では、カウンターで耳にする言葉の意味と由来を整理し、客が普段どおり使ってよい言葉と職人の符丁の線引きをまとめます。

結論から

むらさき・あがり・おあいそは本来、店の者が使う符丁です。客は「お醤油」「お茶」「お会計」と普段の言葉で頼めば十分で、シャリ・ガリ・ネタ・さび抜きのように広く定着した言葉はそのまま使って通じます。

この記事でわかること

  • シャリ・ネタ・ギョク・なみだ、それぞれの言葉の由来
  • 客が気負わず使える言葉と、店の内側に残る符丁の線引き
  • 「おあいそ」より「お会計を」が自然とされる理由
  • 締め・漬け・煮きりなど、仕事の名を知ると深まる会話
  • 10月の品書きに並ぶ戻り鰹・いくら・〆鯖の言葉
目次

符丁は店の内側で生まれた言葉

符丁は、店の者同士が客の前で手短に伝え合うために使ってきた、いわば内側の言葉です。鮨屋に限らず、市場や呉服の商いにも、値段や品物を表す符丁がありました。

由来をたどると、江戸の暮らしの手ざわりが見えてきます。シャリは米粒を仏舎利になぞらえた呼び名、ネタは「タネ」を逆さに読んだ倒語、ギョクは玉子の「玉」を音読みしたものとされます。わさびを「なみだ」と呼ぶのは、つんと鼻に抜けて涙が出るからだといわれます。

カウンターで耳にする言葉と使い方の目安

よく耳にする言葉を、客の立場から使いやすいかどうかで並べてみました。

言葉意味客の言い方の目安
シャリ酢飯そのまま使って通じる
ネタ(タネ)握りに載せる魚介そのまま使って通じる
ガリ甘酢に漬けた生姜そのまま使って通じる
さび抜きわさびを入れない注文の言葉として定着
光り物コハダ・鯵・鯖など皮の光る魚そのまま使って通じる
むらさき醤油「お醤油」で十分
あがりお茶「お茶をください」で十分
おあいそ会計「お会計を」が自然
なみだわさび店の内側の言葉
ギョク玉子焼き「玉子」で通じる
つめ煮詰めた甘いたれ穴子や煮蛤で耳にする
煮きり煮切った醤油を刷毛で塗ったものそのまま使って通じる

気負わず使っていい言葉

シャリ・ネタ・ガリは、いまでは普段の会話にも溶け込み、客が口にしても違和感はありません。「さび抜きで」は注文の言葉として広く定着しており、わさびが苦手な方もよく使います。

「おまかせ⁠」と「お好み」も同じです。献立を職人に委ねるのがおまかせ、食べたいものを一貫ずつ頼むのがお好み。どちらも、もとから客が使うための言葉です。

むらさき・あがり・おあいそは店の言葉

これらは本来、職人や店の者が使う符丁です。客が使っても咎められることはまずありませんが、普段の言葉で頼む方が、かえって自然に響きます。

なかでも「おあいそ」は、店が勘定を差し出す際に「愛想がなくて申し訳ありません」とへりくだった言い回しから来たとされます。そのため客の側は「お会計をお願いします」と言う方が多いようです。

数字の符丁もあります。ピン(1)、リャン(2)、ゲタ⁠(3)などで、職人同士が注文の数を伝え合うときに使われてきました。呼び方は店や土地によって違いがあり、客が覚える必要はありません。

肝心なところ: 符丁を知っているかどうかで、もてなしが変わることはありません。「お醤油」「お茶」「お会計」で十分に伝わります。

仕事の名を知ると会話が深まる

符丁とは別に、知っておくと楽しみが増えるのが仕事の名です。酢や塩で身を締める「締め」、醤油に漬ける「漬け(ヅケ)」、醤油に酒やみりんを合わせて煮切る「煮きり」。いずれも魚をおいしく保ち、味を整えるために磨かれてきた江戸前の仕事です。

奥赤坂の鮨 淡師では、こうした締め・漬け・煮きりに、魚種ごとに期間と温度を見極める熟成を合わせて一貫を仕立てています。血抜きや仕立てはあくまで手段で、その魚がいちばんおいしい瞬間を見極めて出す、という考え方です。

「この鯖は締めていますか」「これは漬けですか」と尋ねるだけで、職人が仕込みの話をしてくれることは多いものです。

10月の品書きで出会う言葉

10月のカウンターでは、季節の言葉も増えます。秋に脂を蓄えて南へ下る鰹は「戻り鰹」。生の筋子をほぐして醤油に漬ける「いくら」も、この時季に仕込まれることが多い一品です。脂ののり始めた鯖を酢で締めた「〆鯖」の「〆」は、締めの仕事を一字で表したものです。

品書きの漢字が読めなくても、慌てなくて大丈夫です。尋ねれば、読み方とともに産地や仕事の話を聞かせてもらえることが多いでしょう。

よくあるご質問

鮨屋で「おあいそ」と言うのは失礼ですか?

使っても間違いではありませんが、もとは店側が勘定を差し出すときの言葉とされます。客は「お会計をお願いします」と言う方が多く、その方が自然に響きます。

鮨屋では「むらさき」「あがり」と言った方がいいですか?

使わなくて大丈夫です。どちらも本来は店の者の符丁で、「お醤油」「お茶」で十分に伝わります。

「さび抜き」は大人が頼んでもいいですか?

気負わずに頼んでかまいません。わさびが苦手な大人の方もよく使う言葉で、最初に一言添えておくと対応してもらえることが多いです。

ガリやお茶のおかわりは頼んでいいですか?

多くの店で気軽に頼めます。「ガリをもう少しいただけますか」「お茶をもう一杯お願いします」と、普段の言葉で伝えれば十分です。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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