イカとタコの鮨に職人の腕が出る理由 隠し包丁・湯霜・煮蛸の柔らかさ

この記事を書いているのは、赤坂の鮨店「奥赤坂 鮨 淡師」です。お品書きを見る →

The Tokyo Sushi Guide の特集 監修|髙田 達央(奥赤坂 鮨 淡師 店主) 更新 読了 約6分

イカとタコの鮨は、隠し包丁、湯霜、煮蛸という三つの仕事で味と歯ざわりが大きく変わります。脂の甘みで印象が決まるマグロやブリとは違い、イカとタコは包丁と火加減の差がそのまま舌に伝わります。この記事では、それぞれの仕事が何のためにあるのかを順に解説し、九月のカウンターで出会うことの多い新イカにも触れます。

結論から

イカとタコは脂や強い香りに頼れないため、隠し包丁の入れ方、湯霜の加減、煮蛸の煮方がそのまま歯ざわりと甘みに表れます。そのため、職人の技量が正直に出る鮨だねとされています。

この記事でわかること

  • イカとタコが職人の腕の見せどころと言われる理由
  • 隠し包丁が歯切れと甘みを引き出す仕組み
  • 新イカ、スミイカ、アオリイカ、ヤリイカ、真ダコの時季と身の違い
  • 湯霜で皮を締め、中を生に近く残す数秒の加減
  • 塩もみから桜煮まで、江戸前の煮蛸の手順
  • 煮蛸の柔らかさが店ごとに違う理由
目次

脂に頼れないから、仕事が見える

マグロやブリは脂の甘みが舌を満たしますが、イカとタコにはそうした強い味の支えがほとんどありません。身の甘みは淡く、印象の多くを歯ざわりが決めます。そしてその歯ざわりは、包丁と火の入れ方で大きく変わります。

同じイカでも、切り目の深さがわずかに違えば噛み切りやすさが変わります。煮蛸は煮る時間ひとつで弾力が別物になります。江戸前のカウンターでイカとタコが職人の腕の見せどころと言われるのは、このためです。

肝心なところ: イカとタコの味は、素材そのものに加えて包丁と火加減に左右される部分が大きい鮨だねです。

隠し包丁 繊維を断って甘みをほどく

イカの身は繊維が密で、厚いまま握ると噛み切りにくく、ねっとりと歯にまとわりつきます。そこで職人は身の表面に細かな切り目を入れます。これが隠し包丁です。握ったあと外からはほとんど見えない深さで入れることが多く、繊維を断つことで歯切れがよくなり、甘みが舌の上でほどけやすくなります。切り目に煮きりがなじみやすくなる効果もあります。

入れ方は職人によって異なります。格子状に細かく入れる人もいれば、斜めに一方向だけ入れる人もいます。アオリイカのように厚い身ほど、深く細かく入れる傾向があります。切り目をあえて表に見せ、鹿の子包丁として飾りを兼ねる仕立てもあります。

イカとタコの種類と時季

九月のカウンターで話題になりやすいのが新イカです。スミイカ(コウイカ)の子で、晩夏から初秋に出回ります。走りの頃は小さく値も張りますが、江戸前の初物として心待ちにする客も少なくありません。小さなものは一杯を丸ごと一貫に握る「丸づけ」で出されることもあります。

種類出回る時季の目安身の特徴と主な仕事
新イカ(スミイカの子)晩夏から初秋薄くやわらかい。小さなものは丸づけで握ることもある
スミイカ(コウイカ)秋から冬厚みと歯切れがある。江戸前で古くから好まれてきた
アオリイカ産地により春から初夏、秋など厚くねっとりと甘い。細かな隠し包丁が活きる
ヤリイカ冬から春身が薄く、さっぱりとした甘み
真ダコ夏と冬に旬があるとされる生、湯霜、煮蛸と仕事の幅が広い

湯霜 数秒で決まる皮の張り

湯霜は、身の表面だけを熱湯にさっとくぐらせ、すぐに氷水で締める仕事です。表面が霜が降りたように白く変わることから、この名で呼ばれます。

活けのタコの足に湯霜を施すと、皮はきゅっと締まって香りが立ち、中には生に近い透明感と甘みが残ります。湯にくぐらせる時間はほんの数秒の差です。長ければ芯まで火が入って固くなり、短ければ皮のぬめりや生臭さが残ります。イカのゲソ(足)も生では噛み切りにくいため、軽く湯に通してツメを塗って出されることがあります。

煮蛸 柔らかさをつくる手順

江戸前でタコといえば、古くから煮蛸です。固くなりやすいタコをやわらかく煮るために、職人はいくつもの手を重ねてきました。

  1. 塩もみ塩をもみ込み、ぬめりと汚れを落とす。
  2. 叩く大根などで身を叩き、繊維をほぐすという昔ながらの方法がある。
  3. 霜降り煮る前に湯へ通し、皮の色と形を落ち着かせる。
  4. 煮る酒や醤油、番茶や小豆などを加えた煮汁で煮る。小豆で煮たものは桜煮と呼ばれ、ほんのり赤く仕上がる。
  5. 煮汁で休ませる火を止めたあと煮汁の中で冷まし、味を芯まで含ませる。

柔らかさの考え方は店によって分かれます。短い時間で引き上げて弾力を残す店もあれば、弱火で長く煮て、歯を入れるとほどけるほどに仕上げる店もあります。タコは加熱の途中でいったん固く締まり、さらに煮続けると再びやわらかくなると言われます。どこで火を止めるかに、職人の好みと考えが表れます。

カウンターで味わうときの手がかり

イカやタコが出てきたら、まず歯ざわりに意識を向けてみてください。隠し包丁の細かさ、湯霜の皮の張り、煮蛸のほどけ方。どれも言葉にされないまま、一貫の中に収まっています。気になれば「このタコはどのくらい煮ていますか」と尋ねてみても。気負わなくて大丈夫です。多くの職人は仕事の話を快く聞かせてくれます。

イカは少し寝かせることで甘みが増すという考え方もあり、いつ出すかは職人によって異なります。鮨 淡師では、仕立ては目的ではなく手段であり、その魚に合った熟成を施して一番おいしい瞬間を見極めて出すという考え方で仕事をしています。手の入れ方ひとつで味が変わるイカやタコは、こうした考え方を舌で確かめやすい鮨だねでもあります。

よくあるご質問

新イカの旬はいつ?

新イカはスミイカ(コウイカ)の子で、多くの場合、晩夏から初秋にかけて出回ります。走りの頃は小さく、身は薄くやわらかいのが特徴です。秋が深まるにつれて育ち、厚みのあるスミイカへと移っていきます。

イカの握りに入っている細かい切れ目は何?

隠し包丁と呼ばれる切り目です。密な繊維を断って噛み切りやすくし、甘みを舌にほどけやすくするために入れます。切り目に煮きりがなじみやすくなる効果もあります。

煮蛸がお店によって硬さが違うのはなぜ?

煮る時間と火加減の考え方が店ごとに異なるためです。短時間で引き上げて弾力を残す店もあれば、弱火で長く煮てやわらかく仕上げる店もあります。塩もみや叩きなど、下ごしらえの違いも柔らかさに影響します。

タコの湯霜と煮蛸はどう違う?

湯霜は表面だけを数秒湯にくぐらせて締める仕事で、中は生に近い甘みと透明感が残ります。煮蛸は煮汁で芯まで火を入れ、味を含ませたものです。同じタコでも、歯ざわりと香りはまったく異なります。

ガイドから、カウンターへ

奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。

江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。

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カウンターに立つ奥赤坂 鮨 淡師 店主 髙田 達央

監修

江戸前の伝統に学び、九州に根を持つ髙田 達央が、東京・奥赤坂の八席のおまかせカウンターに立ちます。The Tokyo Sushi Guide の監修者です。

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