この記事を書いているのは、赤坂の鮨店「奥赤坂 鮨 淡師」です。お品書きを見る →
鮨のコースの最後に茶室へ移り、一服の抹茶をいただく。そのお茶にも、握りに江戸前の仕事があるように流派があります。奥赤坂 鮨 淡師の茶室は茶道小笠原流の作法によるものです。この記事では、その流派が茶の湯の歴史のどこに位置するのかをたどり、あわせて「作法を知らないまま座ってよいのか」という、多くの方が気にされる点にもお答えします。
結論から
当店の茶室は茶道小笠原流の作法によります。千利休から千宗旦へと続いた茶の湯は、宗旦の子から表千家・裏千家・武者小路千家の三千家へ、弟子からは山田宗徧の宗徧流などへ分かれました。茶道小笠原流は、この宗徧流の系統にあたります。お客様の側に作法の心得は要りません。
この記事でわかること
- 鮨のあとに茶室を置いている理由(「間」と「余韻」)
- 千利休から千宗旦へ、そして三千家に分かれるまでの流れ
- 宗旦の弟子・山田宗徧が興した宗徧流と、その茶風
- 茶道小笠原流が、茶の湯のどの枝にあたるのか
- 作法を知らないお客様が、茶室で実際にすること
- 鮨のあとの抹茶が、口と時間に何をしているのか
なぜ、鮨のあとに茶室があるのか
「美味しかった」で終わらない一夜にしたい。奥赤坂 鮨 淡師が茶室を締めくくりに置いているのは、その一点のためです。カウンターで最後の一貫をいただいたあと、席を移して一服の抹茶と季節の菓子をお出しします。慌ただしく店を出るのではなく、口の中を整え、その晩に食べたものを思い返す時間を挟む。日本の言葉でいう「間」と「余韻」を、体験として持ち帰っていただくための時間です。
この茶室で点てられる抹茶には、握りに江戸前の仕事があるのと同じように、拠りどころとなる流派があります。当店の茶室は茶道小笠原流の作法によるものです。
千利休から千宗旦へ。茶の湯が枝分かれするまで
茶の湯の流派をたどると、多くが安土桃山時代の千利休(1522–1591)に行き着きます。利休のあと、その茶は千少庵を経て、孫の千宗旦へ受け継がれました。宗旦は生涯仕官せず、簡素なわび茶を深めた人として知られています。
今日よく名前を聞く三つの流派は、この宗旦の子たちから分かれました。いわゆる三千家です。一方、宗旦にはすぐれた弟子たちもおり、そこからも流派が生まれています。三千家と、弟子から生まれた流派は、上下の関係ではなく、同じ宗旦から分かれた別々の枝にあたります。
| 宗旦からの分かれ方 | 流派 | 備考 |
|---|---|---|
| 次男 宗守 | 武者小路千家 | 三千家のひとつ |
| 三男 宗左 | 表千家 | 三千家のひとつ |
| 四男 宗室 | 裏千家 | 三千家のひとつ |
| 弟子 山田宗徧 | 宗徧流 | 宗旦四天王の一人とされる |
宗徧流という枝 ── 山田宗徧の茶
山田宗徧(1627–1708)は、千宗旦のもとで皆伝を得た弟子で、宗旦四天王の一人に数えられます。明暦元年(1655年)、宗旦の推挙により三河吉田藩主・小笠原忠知に茶頭として仕え、このとき宗旦から、利休以来の「不審庵」、宗旦自身の隠居所の号である「今日庵」を用いることを許されたと伝えられます。晩年は江戸・本所に居を構え、幅広い層から多くの門人を集めました。
宗徧流の茶風は、華美をきらい、質素で静かなたたずまいを重んじるところにあります。派手な道具立てで驚かせるのではなく、簡素なものの中に美しさを見いだし、心のはたらきのほうを深く掘り下げていく。鮨の締めくくりに置く一服として、この考え方は無理なく重なります。
茶道小笠原流は、どの流れにあるのか
当店の茶室が拠る茶道小笠原流は、この宗徧流の系統にあたります。当店に伝わる系図では、宗徧流の十世・山田宗囲に学んだ小笠原宗幸を祖とする流れとして書かれています。つまり、千利休から千宗旦へ、宗旦の弟子・山田宗徧へと続いた枝の先に位置する流派です。
ときどき「裏千家の系統ですか」とご質問をいただきます。裏千家は宗旦の四男・宗室から始まる三千家のひとつで、茶道小笠原流とは、同じ千宗旦から分かれた別の枝という関係になります。どちらが本流という話ではなく、利休の茶がどのように受け継がれてきたかの、道筋の違いです。
作法を知らないまま座って大丈夫か
結論から申し上げると、心得は不要です。当店の茶室は茶会ではなく、鮨の締めくくりとしてお出しする一服です。点てる側が流派の作法に則っているだけで、お客様に手順を求めることはありません。海外からお越しの方も、正座が難しい方も、そのままお入りいただけます。
それでも「何をすればいいか」が分かっていたほうが落ち着く、という方のために、実際の流れだけ書いておきます。
| 場面 | していただくこと | 気にしなくてよいこと |
|---|---|---|
| 席に入る | 楽な姿勢でお座りいただく | 正座かどうか |
| 菓子が出る | 抹茶より先にいただく | 食べ方の作法 |
| 抹茶が出る | 両手で持ち、三口ほどで飲み切る | 茶碗を回す回数 |
| 飲み終えたら | そのまま置いていただく | 拝見の作法 |
抹茶は苦いのではないか、というご質問もよくいただきます。先に甘い菓子をいただくのは、味の設計としてそこに理由があります。菓子の甘みが残ったところへ抹茶の渋みが入ると、双方の角が取れ、後味が澄みます。
鮨のあとの抹茶が、していること
鮨のコースは、白身から始まり、光り物、貝、赤身、煮物、そして玉子へと、味の濃さを積み上げていきます。最後の一貫を終えた口の中には、脂と酢と醤油の余韻が層になって残っています。抹茶の渋みはその層をいったん流し、味覚を平らに戻します。食後に薄い緑茶ではなく、点てた抹茶を選んでいるのは、この働きが強いからです。
もうひとつは時間の働きです。カウンターから茶室へ数歩移動する。その数歩で、食べる時間から、思い返す時間へ切り替わります。鮨は一貫ごとに集中していただく食事で、終わったあとには、静かな時間が要ります。流派の作法が守っているのは、その静けさのかたちです。
よくあるご質問
茶室での作法を知らないのですが、大丈夫でしょうか
ご心配は要りません。茶会ではなく、鮨の締めくくりとしてお出しする一服です。正座が難しい場合も、楽な姿勢でお過ごしいただけます。手順をお尋ねいただければ、その場でお伝えします。
淡師の茶室は、どの流派ですか
茶道小笠原流の作法によります。千利休から千宗旦へと続いた茶の湯のうち、宗旦の弟子・山田宗徧に始まる宗徧流の系統にあたる流派です。
裏千家とは違うのですか
裏千家は千宗旦の四男・宗室から始まる三千家のひとつで、茶道小笠原流とは、同じ千宗旦から分かれた別の枝という関係になります。どちらが本流という区別ではありません。
茶室はコースに含まれますか
お食事のあと、茶室にてお抹茶と季節の菓子を一服お出ししています。ご予約時に特別なお申し込みは必要ありません。
茶室での写真撮影はできますか
掛け軸や炉のしつらえもご覧いただける空間ですので、撮影いただけます。お連れ様やほかのお客様が写り込む場合のみ、ひと声おかけください。
ガイドから、カウンターへ
奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。
江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。
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