カウンターに最初の一貫が置かれたとき、手でつまむか、箸を取るか。多くの方が一度は迷う場面です。どちらでも構いません。それよりも味を左右するのは、持ち方と、醤油のつけ方と、口に運ぶまでの時間です。この記事では、握りを崩さずに美味しくいただくための所作を、手と箸それぞれの手順でご紹介します。
この記事でわかること
- 手食べ・箸食べ、どちらも作法として成り立つ理由
- シャリを崩さない指の添え方と、箸で挟む向き
- 醤油はネタに。ネタを下にして舌にのせる理由
- 一口でいただくことで生まれるシャリとネタの一体感
- 握りが最も美味しい時間はごく短い、という前提
- 一口が難しいときに、慌てず頼める伝え方
手でも箸でも、間違いではありません
握り鮨は手で食べるものか、箸で食べるものか。実はどちらも間違いではありません。江戸前の鮨はもともと屋台で手早くつまむ食べ物として広まった経緯があり、手で食べる文化はそこに根を持ちます。一方で、今のカウンターでは箸で召し上がる方も普通にいらっしゃいます。
大切なのは道具の選択ではなく、シャリを崩さず、ネタの味を活かして口に運ぶことです。この一点さえ押さえれば、どちらを選んでも気負わなくて大丈夫です。
手で食べるときの持ち方
手で食べる利点は、力加減を細かく調整できることです。ふんわりと空気を含ませて握られたシャリは、箸よりも指の腹の方がやさしく扱える場合が多いようです。
- 親指と中指で軽く挟む握りの両脇に親指と中指を添え、人差し指をネタの上に軽くのせます。
- 横に少し倒して持ち上げる寝かせるように持つと、シャリに力がかかりにくくなります。
- ネタの端に醤油煮きりが塗られていなければ、ネタの先に少しだけつけます。
- ネタを下にして口へ舌にネタが触れる向きで、一口でいただきます。
箸なら、横から寝かせて挟む
箸の場合、上からつまむとシャリに圧がかかって崩れやすくなります。握りを横から挟み、少し寝かせるようにして持ち上げると安定します。醤油をつけるときも、握りを倒してネタ側だけを浸すのは手のときと同じです。
| 手 | 箸 | |
|---|---|---|
| 持ち方 | 両脇を親指と中指で挟む | 横から寝かせて挟む |
| 醤油のつけ方 | ネタの先に少しだけ | 倒してネタ側だけを浸す |
| 向いている場面 | 握り全般。力加減を細かく調整したいとき | 軍艦巻きや、手を汚したくないとき |
醤油はネタに。ネタを下にして舌へ
醤油はシャリではなくネタにつけます。シャリを浸すと醤油を吸い込みすぎて味が濃くなり、米粒がほどけて崩れる原因にもなります。江戸前のカウンターでは、煮きりと呼ばれる火入れした醤油をあらかじめ刷毛で塗って出す店も多く、その場合は何もつけずそのままいただきます。
一口でいただく理由
握りは多くの場合、一口でいただくことを前提に仕立てられています。シャリの中には空気が含まれ、口の中でほどけてネタと混ざり合うように握られているためです。途中で噛み切るとその構造が崩れ、シャリがこぼれやすくもなります。
とはいえ、一口が難しい大きさに感じることもあります。そんなときは慌てて頬張るより、最初に「シャリを小さめに」とお願いしてみてください。カウンターの店では快く応じてくれる場合が多いようです。
時間との勝負。写真より先に、まず一貫
握りが最も美味しいのは、職人の手を離れた直後です。人肌のシャリと冷たいネタの温度差、塗られたばかりの煮きりの照り。この釣り合いはごく短い時間しか保たれず、写真を撮っている間にも少しずつ崩れていきます。
七月なら、走りの新子や夏の鯵のように、繊細な仕事を施したネタほど時間の影響を受けやすくなります。奥赤坂の鮨 淡師のような八席のカウンターでは一貫ずつ目の前に置かれますから、置かれたら会話を少し止めて、まずいただく。それが職人の仕事への何よりの応え方であり、最も美味しく味わう近道でもあります。
よくあるご質問
鮨を手で食べるのは行儀が悪いですか?
いいえ。江戸前の鮨は屋台の食べ物として手づかみで広まった歴史があり、手で食べることは今もカウンターで普通に受け入れられています。指先を拭くためのおしぼりや手拭きを添える店も多いようです。
軍艦巻きも同じように食べていいですか?
軍艦は横に倒すと崩れやすいので、そのまま持ち上げていただくのが安心です。醤油をつけたいときは、ガリに醤油を含ませてネタの上に軽く塗る方法が知られています。煮きりが塗られて出てくる場合は、そのままどうぞ。
一口で食べられないときはどうすればいいですか?
最初にシャリを小さめにお願いするのが自然な方法です。多くの店で快く応じてもらえます。二口に分ける場合も、慌てず手元の皿や下駄の上で。誰かに咎められるようなことではありません。
食べたあとの手はどうすればいいですか?
おしぼりで軽く拭けば十分です。カウンターに置かれた手拭きは、そのためのものです。醤油や煮きりとの付き合い方など、ほかの作法もあわせて知りたい方は東京鮨ガイドの記事もご覧ください。
ガイドから、カウンターへ
奥赤坂の八席のカウンターで、味わう。
江戸前の仕事に、ていねいな熟成を。一貫ずつ、その日の最良を握ります。海外のお客様には英語でご案内します。
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